2022.03.05
# エンタメ

“東京の地場産業”だった「アニメ制作」が、なぜかいま地方に続々進出しているワケ

「東京から遠い」はもう関係ない?
数土 直志 プロフィール

実利的な理由もある。アニメ制作では原画・動画と呼ばれるアニメーターの描いた絵や背景美術、フィルム、セル画などをアニメーターの手元からスタジオ、スタジオから撮影所、放送局と頻繁に運んでいた。制作スケジュールは常にタイトだから、仕事の効率上、それぞれが近くにあることが重要になる。

さらに制作は数百人単位の集団作業である一方で、アニメーターや演出はフリーランスが多くいくつものスタジオを渡り歩く。彼ら彼女らにしてみれば、それぞれの制作現場の距離は近いほうがありがたい。制作スタジオにとっても、そのほうが人を集めやすかった。

 

活発化する地方自治体のアニメスタジオ誘致

それではなぜ今アニメスタジオは地方を目指すのだろうか。1月20日に高知県で発表された「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」からは、そんなアニメスタジオと地方を取り巻く状況が窺える。

プレスカンファレンスが開催された市内の老舗ホテル城西館。ここに地元企業やメディアだけでなく、浜田省司・高知県知事や岡崎誠也・高知市長らも祝辞のために顔を見せた。

発表に先立ち17日には高知信用金庫と高知県、高知市、南国市、須崎市の5者が官民で取り組む一大プロジェクト推進のために提携協定を結んだ。2023年春には、人気のキャラクターの装いをしたコスプレイヤーやファンも参加する「第1回アニクリ祭り」を予定する。

「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」プレスカンファレンスの様子
「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」プレスカンファレンスの様子

さらにアニメ企業の創業や誘致による産業のハブづくり、クリエイター教育や人材活用なども視野にいれる。なかでも昨年高知市に設立したばかりのアニメ制作会社スタジオエイトカラーズは事業の目玉だ。高知県では初のアニメスタジオになる。

会場ではKADOKAWAや集英社、講談社、小学館など東京のコンテンツ関連企業のエグゼクティブの姿も多くみられた。創業100周年を記念としてプロジェクトの音頭をとる高知信用金庫の山崎久留美理事長は「アニメの未来課題と高知の未来課題をクリエイティブとデジタルの力で解決する」と強い意気込みを見せる。アニメ産業誘致に対する地域の期待は大きい。

地方へのアニメスタジオ進出の推進力となっているのが、このような地方自治体や地域産業からの支援と要望だ。アニメによる地域振興は作品イベント開催、声優やアニソンアーティストのライブコンサート、あるいは作品と結びつく場所を訪ね歩く聖地巡礼など、アニメファン集客を目的としたものがこれまでも多い。高知県も2021年は細田守監督の最新映画『竜とそばかすの姫』の舞台となったのが話題になったばかりだ。

しかしイベントは一過性であるし、聖地巡礼も関連作品の展開が終われば次第に収束していく。そこで現在はアニメ産業自体を地域に根づかせることに、一部でシフトしつつある。アニメスタジオの設立に補助金や税軽減など地元の手厚いサポートが用意されることは少なくない。高知市のスタジオエイトカラーズの進出にもそうした背景がある。

アニメ制作会社が地方で好かれるのは、アニメーション制作が労働集約産業で雇用人数が大きくなること、原材料の運び込みや廃棄物の少ないクリーン産業であること、そして創作活動を軸としたクリエイティブ産業であることも大きい。クリエイティブな仕事は若者が憧れることが多いから、県外に流出する若者を引きとめる効果もある。地方自治体の最重要課題である高齢化対策にも合致する。

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