茨城県には、赤ちゃんを亡くした女性の声を聴いてくれる「玉響(たまゆら)」というグループがある。わが子を「18トリソミー」という染色体疾患で亡くした吉武陽子さん(高校講師)、そして大病院の勤務経験から出生前検査を考えてきた助産師・渋谷えみさん(茨城キリスト教大学看護学部教授)の2人によるユニットだ。

妊娠中に赤ちゃんに深刻な病気があると言われた妊婦さんに、私と同じ思いを味わってほしくないと思って始めたことです。でも、本当は私自身のために、やっていることでもあるんです。これは、自分が前を向くための場所
陽子さんはそう言う。

吉武陽子さん(写真右)、渋谷えみさん(同左) のユニット「玉響(たまゆら)」 撮影・河合蘭
妊婦健診で行われる「超音波検査」は胎児の一般的な健康状態をチェックするものだが、「出生前検査」はさらに染色体疾患の可能性などを検査するものだ。検査には妊娠10週以降に行うことができる血液検査「NIPT」、羊水を採る羊水検査などいくつかの種類があり、特に高齢出産の場合は染色体疾患の可能性が高くなるため、中には「受けるのが当然」と感じている人もいる。でも本来はひとりひとりが決めることであり、検査を受けた結果、何を決断するのかがとても大切になってくる。

出産ジャーナリストで、出生前診断の国の専門委員会でも委員を務める河合蘭さんは連載「出生前診断と母たち」で様々な選択をせまられた方々に取材をしてきた。今回は、赤ちゃんと死別した人たちに寄り添い、話を聞いている女性に自分自身の体験をお伝えいただく。
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「赤ちゃんが小さい」

陽子さんは大学、高校に通う2人の息子を持つ母親だが、もうひとり、生きていたら中学3年生になるはずの女の子がいた。名前は愛花(あいか)ちゃんという。

愛花ちゃんは、妊娠中からすでに、成長する姿を描くことは難しいと言われていた。
もちろん陽子さんは、妊娠した当初はごく一般的な経過を経て出産に至ると思っていた。それが、かかっていた個人開業医のクリニックで「赤ちゃんが小さい」と言われ、最初の不安を感じたのは妊娠17週のころだった。その後、妊娠26週の時に切迫早産で大学病院に入院することになってしまい、退院時の超音波検査で、今度は「心臓の形がおかしい」と言われた。

心臓についてもっと調べるために、医師がすすめてきたのは「胎児外来」という聞き慣れない外来だ。胎児を見るための専門的な訓練を受けている医師・検査技師がいて、「胎児超音波検査」をおこなっている外来だという。胎児超音波検査とは、妊婦健診の超音波検査より長い時間をかけて、胎児の内臓や骨格のつくり、血流などを見る出生前検査のひとつである。

そこにかかることにしたものの、予約は5日後ならとれると言われた。わが子に何が起きているのかさっぱりわからないし、相談相手もいないまま過ごした、その5日間は1日、1日が耐えがたく、ものすごく長く感じられた。

そして、やっと大学病院の胎児外来で診てもらえる日がやってきた。
診てくれたのは胎児の超音波検査で高名な医師で、先天性の心臓疾患「心室中隔欠損」が疑われるという。陽子さんはひとりで病院に来てしまったことを悔いた。何とか駐車場にたどりついて車には乗れたが、気が動転して、そこから、しばらく何もできなくなってしまったからだ。幸い、看護師の友人に電話をしてみたところ、上手くつながり、少し気持ちが落ち着いた陽子さんは、何とか家に帰ることができた。

写真はイメージです Photo by iStock

翌週は、心臓に詳しい別の医師の超音波検査も受け、「確実に、心臓に穴があいています」と言われた時、涙があふれて止まらなくなった。そこまで「何かの間違いかもしれない」という考えにすがり、がんばってきた陽子さんは現実を悟った。
その精密な超音波検査からわずか四日後、陽子さんはお腹の張りも再び強くなり、切迫早産による二度目の入院となってしまった。