持続的発展目指す「ESG投資」そのもっともらしさを前に個人投資家が持つべき大切な視点

善意を搾取されないために
大崎 匠 プロフィール

長期的なリスク・リターンの向上を目指すESG

グローバルでの一大トレンドとなっているESG投資。では、なぜ年金基金や保険会社、アセットマネジメント会社などの「機関投資家」はESGを推進するのだろうか。

当然、投資を通じて環境・社会問題の解決へのコミットメントを行いたいという高い理念に起因している面もある。しかし、単に「持続的発展に資する投資」であることだけをもってこの新たな分析手法が推進されている訳ではない。ESG(投資対象にとってのSDGs)を重視する企業や国への投資は、「中長期的な目線でリスク・リターンの関係性を改善する」との考えからESG投資を推進しているのだ。

確かに、大手企業による粉飾決算や情報隠蔽・改変、原油の海洋流出など、ガバナンスや環境に関する問題によって、企業の収益性が悪化するだけでなく株価も大きく毀損された事例が国内外問わず多く存在する。エンロンやフォルクスワーゲン、BPといった具体名を挙げれば、不祥事の顛末をイメージすることは容易だろう。

これらの不祥事は必ずしも発生可能性は高いとは言えない。しかし、一度リスクが示現した場合の投資家が被る損失は甚大だ。投資の事実が世間に報道されることで投資家としての評判を落とすだけでなく、株価急落による投資パフォーマンスの著しい悪化を受ける。このようなテールリスク事象を低減するためには、E・S・Gの観点で分析することに意義がある。こうした考え方がESG投資の前提とも言える。

今や当たり前のものと捉えられているこの前提ではあるが、実はこの投資パフォーマンスとESGの関係性には議論の余地が多分にある。

環境問題や社会問題など、本業以外へも気を配れる企業への投資が将来的に高い収益をもたらすとの論理は、説得力に富んでいるため、こうした寓話的な関係性を証明するために、世界中の研究者や実務者は、調査・研究に躍起になっている。

 

ニューヨーク大学は2021年、ESGと投資先の財務及び投資パフォーマンスの関連性を調査した245の研究論文を分析した結果を公表した。ESGと財務パフォーマンスの関係性では、58%の論文でポジティブな影響がある(正の相関)と結論付けた一方で、ネガティブな影響(負の相関)があるとした研究結果は僅か8%しか存在しなかったという。

つまり、ESGの評価が高い企業は、ROE(自己資産利益率)やROA(総資産利益率)といった企業の財務パフォーマンスが将来的に向上する可能性が高いとの結果だ。

しかしその一方で、リスク調整後の投資パフォーマンス(投資収益)との関係性では、ポジティブな影響があるとしたものはわずか33%しか存在していない。ネガティブとしたものも14%しかないものの、半数以上の研究結果が無相関との結論に至ったのだ。

つまり、ESGと投資収益の関連性は今のところ「わからない」と表現することが正しいのではないか。環境・社会・ガバナンスの評価体系の理解と導入がより一般的となり、調査期間をさらに長期化することで将来的にこうした調査結果が変わる可能性もあるが、今のところは理念先行であると言わざるをえない。

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