持続的発展目指す「ESG投資」そのもっともらしさを前に個人投資家が持つべき大切な視点

善意を搾取されないために
大崎 匠 プロフィール

ESGが効果的であることを示す一方で課題も浮上

研究結果ではESGと運用成績の関連性は現状ではわからないとしたものの、その効果を信じるに足りる事象が2022年現在、まさに起こっている。

2022年2月24日にロシアはウクライナ侵攻を開始した。この侵略戦争は、国際社会からの激しい批判にさらされ、日本や米国、欧州諸国から広域な経済制裁を課されることとなった。輸出入の制限によってロシア経済の先行きの不透明さが著しく高まった結果、同国の株式市場は40%を超える下落を見せた。

ロシアの金融市場に与えた悪影響はそれだけではない。同国の主要銀行が国際決済ネットワークのSWIFT(国際銀行間金融通信協会)から締め出されることが決定されると、露ルーブルとの決済が困難になるとの懸念が強まり、対主要通貨で同通貨が暴落。ロシア資産のパフォーマンス悪化が顕著となった。

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こうしたロシア資産の暴落を前に、機関投資家は狼狽しているかというと、必ずしもそうではない。ESGを導入している主要機関投資家は、ロシア関連企業への投資を自主的に禁止または制限している場合が少なくないからだ。

ESGは個々の企業への評価だけではなく、投資対象が属する国や地域に対しても適用される。特に社会面やガバナンス面に課題があるだけでなく、2014年のロシアによるクリミア侵攻以降、西側諸国から経済制裁を受けている同国への投資は、ESG投資の観点では推奨されていない場合が多い。

そのため、ESGを積極的に受け入れる投資家は、今回のロシア株価と露ルーブルの暴落による悪影響は最小限に抑えられたと考えられる。つまり、ESGフレームワークはその目的を大いに果たしたのだ。

 

しかし、今回のウクライナ侵攻がESGフレームワークにもたらしたものは、その有効性だけではなかった。グローバルで推進されるESG投資の課題や矛盾も浮き彫りにしている。

北京オリンピック終了直後に突如勃発した大国ロシアの軍事行動は、欧州のみならず数多くの国における「外部脅威からの防衛」を再考させる契機となった。2月には、ドイツのショルツ首相が、今年の軍事予算を1000億ユーロ増額させ、今後も大規模な軍事費を予算計上するとの計画を示した。また、フィンランドやスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加入議論を加速させるなど、欧州内の軍事的なイニシアチブを掻き立てる結果となった。

こうした一連の変化は、侵略者からの防衛という観点において、防衛(軍需)産業が必要であるという点を強調する。これは昨今のESGやサステナブル・ファイナンス重視の潮流に逆行するものだ。

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