2022.03.12

アニメーターはなぜ働き続けるのか? 「やりがい搾取」では説明できない“意外な実態”

文化社会学・メディア史研究者の永田大輔と労働社会学者の松永伸太朗による『産業変動の労働社会学 アニメーターの経験史』(晃洋書房)は、なぜフリーランスのアニメーターは働き続けるのか、ということを働き手自身へのインタビューと文献調査から導き出している。

しばしばアニメーターの働き方に関してその労働条件が報じられ(実はこれにも誤解があることを同書は指摘する)、それでも働くのは「アニメが好きだから」ということにつけ込んだ「やりがい搾取」だと語られる。だがそういう見立てでは気付けないアニメーターたちの「働き続ける理由」や、低賃金長時間労働とはまた別の、アニメ制作の現場における課題について、永田・松永両氏に語ってもらった。

[PHOTO]iStock
 

「やりがい搾取」論で捉えられない実態

――永田さん、松永さんはまず、アニメーターに関して「年収100万円台」と言われるけれども実際には動画以外は平均200万円台も多いし監督・総作画監督になれば500~600万円、均して見るならフリーランスとしては平均水準で、アニメーターだけがとりわけ低賃金長時間労働の状態にあるとは言えない、という確認から本を始めています。

アニメーターという仕事の特徴でありふしぎな点は、ポップミュージックや現代アートの作家のように著名になると莫大なお金が入る構造になっていない、つまり「当たったらでかいからやる」みたいな世界ではないのにたくさんの人が参入している、と指摘されていました。では「なぜ働くのか」に関して、いわゆる「やりがい搾取」では捉えきれないのでしょうか。

松永 やりがい搾取論では「使用者(資本家)に労働者が騙され、操られている」という話になります。しかし労働社会学は実証的に「外からそう見えたとしても、働く側は働かせる側の論理から意外と距離を取っている」こと、内心「くだらない」と思っていたり、抵抗していたりすることを明かしてきました。働く側は使用者が誘導したい方向とは違うやり方で自分たちの動機を作っていることが多々ある。

かくいう私もかつてはやりがい搾取論の枠組みでアニメーターの調査を始めたのですが、話を訊いていくと実際には「好きなことを仕事にしているから稼げなくてもいい」とは単純に思っておらず、やりがい搾取論では実態を捉えられていないと思いました。

好きなことだからと納得するのではなく、お金等の労働条件に関して怒っているアニメーターだってたくさんいます。もちろん入口として「アニメのファンだから関わりたい」と言って入ってくる人は今も多いものの、業界に入った「きっかけ」以上のものにはなっていない。

「ではなぜ働き続けているのか?」を掘り下げていくにあたって私たちが採用したのは、アメリカの著名な労働社会学者マイケル・ブラウォイの理論です。

ブラウォイは「資本主義は労働者を搾取するのに、なぜ労働者は意外と抵抗せず、やりがいをもって働いているのか」と疑問に思った。そして農業機械の工場で単純労働なのにいきいきしている人たちを参与観察するなかで、彼らが自分たちの「線引き」が崩れないよう働いていることを発見します。線引きというのは、人それぞれに持っている「どんな働き方なら受け入れられるか」の基準、幅です。それを超えると人は「やってられない」となって辞める。

労働者は経営者に騙されているのではなく個々にそのラインを自分たちで決めている。私たちは日本のアニメーターの場合の労働者自身の「線引き」を探っていきました。

SPONSORED