「子ども」より「夫婦」が優先の欧米社会

――欧米は「カップル文化」が定着しているので、子どもよりもパートナーが優先といいますよね。ところが、日本は子どもを産むと、子どものお母さんのみならず「夫のお母さん」にもなってしまうような印象があります。

中村:子どもが生まれた後、夫婦関係が劇的に変化する家庭もよく耳にしますね。夫は妻を女性として見れなくなってしまい、セックスレスになる。そして、妻は夫からの愛情が望めない分、息子に愛情を注ぐという話もよく聞きます。しかも、「~ちゃんのママ」と呼ばれて自分のアイデンティティすらも失ってしまうとか。

例えばイギリスでは、ティーンエイジャーの時から子どもと親の距離が遠いです。寮生活をしている子も多い。日本では子どもが生まれると子どもも親と同じ部屋に寝る、もしくは夜泣きが夫の仕事の邪魔になるので、母子が同じ部屋に寝て夫は別室というケースもあります。ところが、欧米では子どもがいくら夜泣きしても「泣かしておけ」という感じで、夫婦の生活が優先です。

子どもが生まれることによって、子どもが家庭の中心になるのはアジア特有だと思います。そして、子どもが大人になっても、親が子離れできないというか、子どもがまだ自分を頼るべき存在だと思っている。「オレオレ詐欺」は、やはり日本社会における親子関係の特性が顕著に表れた現象ではないでしょうか。

『親密な他人』より
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――日本における「母と息子」の関係性の特殊さは何が原因だと思いますか。

中村:日本は「結婚して夫や子どもに尽くす」ということが正しいとされる風潮がまだ根強いですよね。だからこそ、女性が自己実現しづらく、それを子どもに自らの欲望を託そうとする人は少なくないのではないでしょうか。そして、娘よりも息子のほうに欲望を託しやすい、というのはあると思います。

娘に対して自分の欲望を託し続けることは、思春期になるとある意味難しい。娘に「嫉妬」してしまったり、自分の理想とする男性を選ばなかったりすると、裏切られた気持ちにもなりますから。ところが、息子に自分の欲望を託し続けることは可能です。料理のできない息子のためにご飯を作り続けていれば「おふくろの味」とありがたがられ、彼が結婚したとしても「姑」という立場で息子を管理し続けることができる。

『親密な他人』より

――映画でも恵は身寄りのない雄二に寝食を提供し、ある意味、自分の意のままの存在にしていますね。

中村:映画では、恵が自分に近付いてくるオレオレ詐欺の少年の雄二の存在を逆手にとって、ほんの少しの間「母」になることに成功する、というストーリーにしました。雄二も「息子」になることに甘んじている。それは、オレオレ詐欺の少年をリサーチしてみたところ、両親の不仲など壊れてしまった家庭で育った子たちが多かったこともあります。オレオレ詐欺は、母の愛に飢えていた子が「なけなしのお金を自分にはたいてくれる」という気持ちを味わっている、という解釈もできると思ったんです。