地方に根強く残る「結婚・出産=女の幸せ」

――イギリスやアメリカでは「母であらねばならぬ」というプレッシャーはないのでしょうか。

中村:もちろん「結婚をして子どもを産む」ということが一つの幸せの形であるとは認識されています。でもそれがすべてだとは思われていない。本人が望んでいるからそう認識されているだけで、「結婚・出産=女の幸せであり、そこから外れた人は不幸」という認識はありません。いろんな生き方をする人がいるので、幸せの形を定義するような風潮はありません。

帰国してからテレビの仕事をしていた時、地方に取材に行くと「あなた結婚していないの?」と言われ、していないと答えると「誰か紹介してあげようか?」としょっちゅう言われました。やはり、独身で居続けることに対して社会的なプレッシャーは感じていましたね。また、テレビの業界では「仕事をいくらがんばっていても、結婚して子どもを産んでいなければ、女としては半人前」と言われたこともありました。

職場には不妊治療で苦しんでいる人も少なくありませんでした。アメリカだと子どもができなければ養子を取るという選択を選ぶ人もたくさんいます。ところが、日本はそうではありません。そこには「お腹を痛めてこそ母」というような幻想にも似た風潮があるのかもしれません。

『親密な他人』より
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日本の息子を育てる母たちへ

――海外の映画制作現場も知る中村監督ですが、『ハリヨの夏』で日本で監督デビューしてから16年が経とうとしています。その間、日本の映画界に変化を感じますか?

中村:現在は女性監督が増えましたが、私が始めた頃はほとんどいませんでした。女性は監督になれないとも言われましたし、ロクなのがいないとも言われました。私は負けず嫌いなので「見返してやる」と思って今まで続けて来ましたが……。

そして、女性カメラマンは本当に少ないです。優秀なカメラアシスタントはたくさんいますが、チーフはほとんどいません。女性は良きアシスタントであれ、という文化があるのだと思います。責任ある仕事は任せられない、と。

これは日本の男性中心社会によるものであることはもちろんですが、そういう社会に依存する男性を育ててしまった、「男尊女卑」の価値観を内在化してしまった母親たちの存在も背景にあるのではないかと、『親密な他人』のリサーチ・制作を行うなかで改めて感じました。

本作を通じて、日本の女性が感じている抑圧、そしてそれがもたらすものについて考えていただけたら嬉しいです。

『親密な他人』は2022年3月5日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開中
(C)2021 シグロ/Omphalos Pictures
配給:シグロ