人は死ぬときどうなるのか?在宅診療医が語る「看取りの作法」

蘇生措置は“儀式”でしかない?

誰にも訪れる「死」。しかし、実際に人がどのようにして死んでいくのか知っている人は少ないのではないでしょうか。作家の久坂部羊氏は、平穏で幸せな死を迎えるためには、事前の「予習」と「準備」が必要だと助言します。同氏が、新しい「死の教科書」として書いた新刊『人はどう死ぬのか』より、在宅診療医として数々の患者を看取った経験に基づく、リアルな死の姿をお届けします。

死のポイント・オブ・ノーリターン

突然死や即死の場合は別として、ふつうの死はまず昏睡状態からはじまります。完全に意識がなくなって、呼びかけにも痛みの刺激にも反応しない状態です。唸り声やうめき声を発していたり、顔を歪めていたりする間は、昏睡とは言いません。

昏睡のときは、エンドルフィンやエンケファリンなど、脳内モルヒネが分泌されますから、本人は心地よい状況にあるなどと言われますが、もちろんこれは仮説で、確かめようがありません。

脳内モルヒネは人生最後のお楽しみであり、ほんとうに心地よい状態が用意されているのかもしれませんが、実際はそれほどでもなく、単に死戦期(生から死への移行期)の不安をやわらげるためのおまじないかもしれません。

昏睡状態になれば、いっさいの表情は消えます。意識がないのだから当然です。昏睡に陥ると、間もなく下顎呼吸がはじまります。

顎を突き出すような呼吸で、これが死のポイント・オブ・ノーリターンとなります。呼吸中枢の機能低下によるものですから、酸素を吸わせても意味がありません。つまり、これがはじまると、回復の見込みがゼロになるということです。

ほとんど空気を吸っていないように見えるので、はじめて見る人には喘(あえ)いでいるように感じられるかもしれません。ですが、先に述べたように意識はないので、本人は苦しくない(はずです、確認はできません)。

この状態になると、蘇生処置をほどこしたところで元にもどることはまずなく、仮にもどったとしてもすぐまた下顎呼吸になります。生き物として寿命を迎えているのですから、抗わずに穏やかに見守るのが、周囲の人間のとるべき態度と言えます。

下顎呼吸がどれくらい続くのかは人によりますが、たいていは数分から一時間前後で終わります(私は在宅医療で一昼夜続いた患者さんを看取ったことがありますが)。

次第に呼吸数が減って、無呼吸と下顎呼吸が入れ替わり現れます。これは「チェーンストークス呼吸」と呼ばれるもので、やがて最後の一息を吐いて、ご臨終となります。

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