大人も読みたくなる「ガクサン」の魅力
『ガクサン』には、僕が共感できるエピソードがたくさん出てくるのですが、中でも僕が好きなエピソードは、漫画『ガクサン』の「10冊目 ロングセラーの秘密」です。そのエピソードでは、ロングセラーの参考書が、継ぎ足しを繰り返して旨味が熟成していくラーメン屋さんのスープにたとえられています。
『基礎英文問題精講』は、僕が大好きな「ガクサン」の1つです。
初版が出たのは約40年前で、昨年には四訂版が出ています。タイトルに「基礎」とついていますが、中身はぜんぜん基礎じゃない(笑)。この一冊があれば、東大レベルの英文まで対応できるようになると思います。このような参考書には、著者と編集者の苦労が詰まっており、そうやって版を重ねて長く残っているものを見ると、ある種の感動を覚えます。
学生時代、大学受験を志す中で出会う一冊は、とても貴重なものです。大人になってからも人生を変えるような本にめぐり合うこともあると思いますが、参考書はその後の人生にダイレクトに結びつくと思うんですよね。特に高校生にとっては、受験戦争を闘う相棒みたいなものです。ですから「人生を変えてくれる一冊」に出会ったときの喜びは、この上ないものでしょう。
僕の仕事は、生徒さんにぴったり合った参考書をオススメすることですが、オススメした結果成績が急上昇することはよくあります。生徒さんが志望校に合格した後、その生徒さんとお話すると、僕がオススメした本が合格の要因だったと言ってもらえる時があります。生徒さんにとって、その一冊は生涯忘れることのない「人生の一冊」になったのだと思います。そういった可能性を秘めた「ガクサン」は、やはりおもしろいです。
仮に今のように、勉強を教える立場にいなくても、きっと参考書は買い続けていたと思います。実際に参考書に魅了され、書店の参考書コーナーについ立ち寄ってしまう方はたくさんいらっしゃいますし、学校の先生や塾講師でなくても、参考書についてブログを書いている人を多く知っています。
なぜ大人になってからも、「ガクサン」に興味を持つ人がいるのか。それはやはり、大人になると「もう一度知識を頭に入れたい」と思うタイミングが来るからではないでしょうか。実際に僕の生徒さんでも、社会人になってから勉強を始める方や、30代でもう一度大学を受験しようという方が何人もいらっしゃいます。
世の中でも「学びなおし」が盛り上がってきたタイミングで発売される、漫画『ガクサン』。今までこういった切り口の漫画はなかったので、僕のように参考書が好きな人は「あるある」と共感しながら読めるでしょうし、そうじゃない方も「参考書業界のリアル」を楽しく読めるはず。
また、勉強があまり好きじゃなかった方も、「学生時代にこの漫画を読んでいたら、ちょっと変わっていたかもな…」という気持ちになる作品でしょう。受験生だったころの懐かしさと、意外と知らない「参考書業界」に関する新発見、どちらも楽しみながら読めるのがいいですね。
(取材・構成:モーニング編集部)