2022.03.26
# 学校・教育

「肝心なことがわからない」学力調査、専門家が憂う“あまりに課題が大きい”現実

「朝食と学力の関係」で考える
川口 俊明 プロフィール

以下、小学4年生から6年生までの算数の学力調査を接続したパネルデータと、小学校6年生時点のクロスセクションデータの分析結果を示そう。分析には、回帰分析という手法を使う。ごく簡単に説明すると、回帰分析はY(たとえば学力)とX(たとえば勉強時間)のあいだに、Y=βX+αという関係があることを想定し、βやαの値を推定する技法である。

仮にYが学力(単位:1点)、Xが勉強時間(単位:1時間)のとき、Y=2.1X+50と推定できれば、勉強時間が1時間多いと2.1点学力が高いと解釈できる。ここでは説明のためにXを勉強時間としたが、Y=β1X12X23X3+αと拡張すれば、勉強時間(X1)に加えて、朝食(X2)や地域行事への参加(X3)といった具合に、複数の要因を同時に考慮することもできる。なお、パネルデータを分析するには通常の回帰分析では不十分なので、回帰分析の応用である固定効果モデルという手法を利用した。

表1:筆者作成
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分析結果の一部を要約したものが表1である。表中の「+」という箇所は、関連があると判断できた箇所だ。たとえば小6のクロスセクションデータ(表の右)では、朝食・勉強時間・地域行事等々のすべてに+の表示がある。これは、朝ご飯を食べている/勉強時間が長い/地域行事に参加していると回答した子どもの方が、それぞれそういった活動をしていない子どもと比べて算数の学力が高いという意味だ。

対してパネルデータ(表の左)では、勉強時間と塾に+の表示がある。これは、勉強時間が増えた/塾に通うようになった子どもの学力が高くなったということだ。同時に、勉強時間が減った/塾に通わなくなった子どもの算数の学力が下がったということでもある。

クロスセクションデータを使って学力の高い子どもと低い子どもを比べると、両者の違いを知ることができる。一方でパネルデータを使うと、学力の変化と連動する要因を知ることができる。表1から言えることは、朝食を食べている子どもの方が確かに算数の学力は高いが、朝食を食べるようになったからといって連動して学力が高まるわけではないということだ。

もっとも、この結果はそれほど驚くようなことではない。

分析に利用したデータは小学4年生から6年生のものなので、すでに子どもたちの学力や基本的な生活習慣・学習習慣は確立した後である可能性が高い。この時期に朝ご飯を食べるようになった(あるいは食べなくなった)としても学力がそれほど変わらないというのは、いかにもありそうな話である。もっと低学年のデータだったら違った結果になったかもしれない。加えて、今回使った分析方法はごく基本的なものなので、考慮できていない要因も多い9。朝ご飯を食べても学力は上がらないと断定するのは早すぎる。

私がここで言いたかったことは、パネルデータとクロスセクションデータでは異なる結果が導かれる可能性がある、ということだ。一時点の学力調査を行い、朝ご飯を食べている子どもの学力が高いというだけでは、教育を語るのに十分ではない。「朝ご飯を食べれば学力が上がる」ということを確かめていく場合は、パネルデータを整備し「変化」を検証する等の方策が必要になってくる。

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