「カディロフツィ(「ツィ」は「一派」の意)」と呼ばれる兵は総数約2万人。その中の精鋭部隊「ハンター」が、ゼレンスキー暗殺の任務を担っているとみられる。暗殺、拷問、拉致、破壊工作に長け、'00年代のチェチェン紛争では敵兵の首を生きたまま次々と斬り落として世界を戦慄させた。
プーチンの手駒は、彼らのような荒くれ者ばかりではない。最新鋭の装備に身を固め、装甲車に乗り込んだ「民間企業の警備員」たちも続々と国境を渡っている。
「近年の戦争では、国家に雇われて戦う営利企業PMC(民間軍事会社)が重要な役割を果たしています。社員の多くが各国の特殊部隊元隊員や傭兵で、イラクやアフガニスタンでは'00年代、のべ約26万人の民間人が米国政府の依頼で参戦していたと言われています」(軍事ジャーナリスト)
ロシアも多数のPMCを擁するが、皇帝プーチン直属とも言えるのが、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の元中佐ドミトリー・ウトキンが創設したワグナー社だ。
同社はプーチン最側近の大富豪エフゲニー・プリゴジンが後ろ盾となり、リビア、シリア、スーダンなどあらゆる紛争地域でロシア政府の「汚れ仕事」をこなしてきた。
ちなみにプーチンは公的にはワグナーの存在を認めず、同社の取材を試みたジャーナリストが'18年、アフリカで殺害される事件も発生している。
最強の格闘技「システマ」
ロシア軍の手を汚さず、ゼレンスキー暗殺作戦を遂行させる。それがプーチンの狙いだった。
ワグナーは開戦前の昨年末から密かに行動を始め、早くも1月下旬には兵士をキエフに潜入させていた。彼らはゼレンスキー大統領やその妻、キエフ市長など24人の重要人物を追跡していたという。また、チェチェン兵たちもキエフ郊外に潜伏して作戦行動に入っていた。両者を合わせると、開戦直後までに1000人以上が暗殺任務に動いたと報じられている。
ところが、どちらの暗殺作戦も失敗に終わった。チェチェン兵は大統領に近づくことすら叶わず撃破され、ワグナーの部隊も百人単位の大損害を負ったというのだ。