原発、ワクチン、ウクライナ戦争…我々は「3.11後の福島」から何を学んだのか

恐ろしいのは危機の本体だけではない
東電原発事故、トリチウム処理水、新型コロナウイルス、HPVワクチン……事実に基づかない「不安と怒り」が社会を扇動する。
恐ろしいのは危機の本体だけではない。不安と怒りを煽る「情報」が巻き起こす「情報災害」、そしてそれを広げていく「風評加害」だ。
「3.11後の福島」で被災と「風評」の地獄を見た福島在住ジャーナリストが生々しい実体験と共にこの国に蔓延する「正しさ」の嘘を斬る初の著書『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)より、導入部分を抜粋してお届けするーー。

それは本当に「正しい」ことだったのか

〈 編集で取材内容とはかなり異なった報道をされてしまい、放送を見て正直愕然としました 〉

〈 映像が編集され真逆の意見として見えるように放送されてしまいとても悲しくなりました 〉

〈 現場の生の声として、物資の手配と医療従事者への金銭面や精神面での補助に関しても強調してコメントさせていただきましたがそちらも全てカットされてしまいました 〉

新型コロナウイルスの流行初期。テレビ局から取材を受けた医師が、自身の映像が使われた番組への異議をSNS上で訴えたことが報じられた。

医師は「今の段階でPCR検査をいたずらに増やそうとするのは得策ではない」という趣旨で繰り返し答えたが、実際の放送ではその発言部分はカットされてしまった。ヨーロッパ各国でのPCR検査は日本よりかなり多いという文脈の中で自身のインタビュー映像が流れたため、〈PCR検査を大至急増やすべきだ!というメッセージの一部として僕の映像が編集され、真逆の意見として見える〉と主張していたのである(*1)

Gettyimages

当然ながら、医療現場の専門家の声を真逆の内容で拡散させたことは、その内容を信じた人の命や安全に大きなリスクをもたらす。さらに、この件では真逆の内容へと「捏造」された内容に多くの批判やバッシングが生じ、医師本人にぶつけられてしまったのだ。

冒頭の悲痛な訴えは、それらを受けた本人のコメントである。この件は多くの国民に健康に関わる誤解を広めたこととも合わせ、「報道被害」と呼ぶべき側面もあった。

 

このような事例は氷山の一角に過ぎない。新型コロナウイルス禍での出来事だけを振り返っても、商業施設の空になった陳列棚と開店前から並ぶ行列の映像が強調されたり、因果関係が明らかでないのに「ワクチン接種後に死亡」などと繰り返し報じられたりもした。

政府の不備不足が毎日強く非難された一方で、用意されている補償制度など救済のための情報は広まりにくかった。東京五輪開催によって感染が爆発するかのように予言して不安を煽る言説も多く見られた。

それらの報道には批判も多く向けられたが、一方で影響される人も少なくなかった。

トイレットペーパーやマスクはますます買い占められ、ワクチンに不安を募らせて接種を控える人も目立った。政府の無策に怒る一方で、休業支援金などの補償制度の詳細を全く知らない人も大勢いた。

中には、日本より桁違いに多くの感染者や死者を出している海外の「演説が上手い」リーダーを褒めそやしたり(*2)、東京五輪の開催に反対するために選手個人に出場辞退を迫ったり誹謗中傷をぶつけるような人まで現れた(*3)

それらは果たして本当に「正しい」ことだったのか。

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