一体化することで、何かを成すのが容易になる

安田さんの「イナンナの冥界下り」のシュメール語は理解できなくても、ただ石橋さんの舞を見ているだけで、「昼/夜」「地上/空」「シュメール王国/日本」「紀元前2000年/令和4年」「わかる/わからない」等々、いろいろな境界が溶けていくような感覚に陥った。安田さんによると、新渡戸稲造は「武士道」をまとめる上で、孔子が「誠」という言葉に超自然的な力を与え、ほとんど神と同一視していたことに注目していた、という。誠を極めれば、他者や事物との境界が取り払われ、対象が人だろうが物だろうが一体化していく。そして一体化すれば何かを成すことが容易になるのだと。二つのもののお互いを含む、境界や媒介という意味を表す古語が「あわい・あはい(間)」だが、このとき、ヘリポートにいた誰もが、「あわいの時間」に生きていた。

 安田さんと石橋さんのコラボレーションが実現した「境界が曖昧な“あわい”の力 日本人の身体」が掲載されたFRaU5月号 JAXURY特集号は、3月24日(木)発売。

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すべての撮影が終わり、インタビューが始まった。能楽師としての視点や経験のみならず、世界中の古典に精通し、さらにはバーチャル・リアリティ開発などにも携わるだけあって、iPadを駆使しながらの講義は、今まで気づかなかった脳内スイッチがパチパチ押されて、そこに光が灯るような感覚。石橋さんは熱心にメモを取りながら、「それを聞いて思い出したことがあります」と、自らの境界が溶けていった快楽の実感値を、次々と、記憶の中から呼び起こしていった。撮影が始まってから対談が終わるまで、それらはずっと、「ほんもの」の「光り輝く」時間だった。

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