中国・王毅外相の「変化」
ロシアとウクライナを除き、最も強力なメッセージを送り続けているのは、米国のバイデン政権で外相にあたるブリンケン国務長官である。昨年からウクライナ国境付近での動向を注視してきたブリンケン国務長官は1月、ロシアのラブロフ外相と対面で会談し、軍事侵攻計画を中止するよう強く警告。侵攻後には各国外相と相次いで会談し、対ロ制裁での協調を呼びかけてきた。

3月5日にはウクライナとポーランドの国境を訪問し、ウクライナのクレバ外相と並んで「全世界はウクライナと共にある」と強調した。ウクライナの主権と領土保全に関与する「米国の揺るぎない連帯」を表明する動きは、対ロ包囲網の構築を牽引している。5日の王毅中国外相との電話会談では「世界はどの国が自由や主権のために立ち上がるのかを注視している」などとプレッシャーをかけ、ロシア寄りの姿勢をみせる中国を牽制。「プーチン大統領は戦略的敗北を喫する」といった警告も忘れない。
米国と共に牽引役を担う英国のトラス外相も2月25日に王毅外相と電話会談し、「プーチン大統領をウクライナで確実に敗北させる」などと強烈なメッセージを送ってきた。その強硬姿勢からロシアに名指しで批判されるトラス外相は「プーチン大統領を止めなければ、NATOの戦争になりかねない」と危機感をあらわにし、偽情報も交錯する情報戦の主導権を握る。
中国の立場は「当事国の合理的な安全保障上の懸念に配慮しなければならない」というもので、NATOの東方拡大を嫌悪したロシアの立場にも理解を示すものだ。しかし、米英などからの圧力で孤立化を恐れる王毅外相は3月7日のオンライン会見で「必要な時に国際社会と共に仲介する用意がある」と述べ、これまでの傍観姿勢から変化させた。
王毅外相はロシアのラブロフ外相、ウクライナのクレバ外相とそれぞれ電話会談しており、3月1日にはクレバ外相から「中国の仲介を期待する」と求められている。もちろん、王毅外相の姿勢には「中国がすぐに動くことはない。中国にとって最も価値が高まった時に、どうするかを考えるという中国スタンダードの範囲内」(全国紙政治部記者)との見方が支配的だ。ただ、自国の価値を最大限アピールする外相という観点で見れば、両国外相と向き合える王毅外相の存在感は小さくはない。