経済全体の賃上げ率はもっと低い
問題はそれに止まらない。なぜなら、経済全体の賃金上昇率は、春闘賃上げ率より大幅に低くなる可能性が高いからだ。
これまでの実績が、図表1に示されている。2013年以降、安倍内閣は春闘に介入した。その結果、春闘の賃上げ率は、それまでの1.8%程度から2%を超える水準になった。
ところが、経済全体の賃金上昇率は、ほとんど影響を受けなかった。実質賃金の上昇率は、この期間ほぼマイナスを続けた。こうなるのは、春闘の対象企業は、製造業の上場企業が中心であり、全体の中のごく一部にすぎないからだ。
高騰原材料価格を転嫁できなければ、賃上げできない
さらに問題がある。それは、賃上げをめぐる環境が、これまでとまったく違うことだ。
原材料価格の高騰があまりに激しいため、また、コロナ禍の影響で需要が減退しているため、企業が上昇分のすべてを製品価格に転嫁するのが難しいのだ。
原材料費が上がる半面でそれを販売価格に転嫁できなければ、粗利益(売り上げ−売上原価=付加価値)は減る。
賃金は付加価値から支払われるので、企業としては賃金をあげたくてもあげられない状態になる。
これに関する企業の現状はどうなっているか? 法人企業統計調査の最新のデータ(金融業を除く全産業)によると、付加価値は、2020年4~6月期の落ち込みから回復したあと、ほぼ一定。21年10~12月期にはやや増加している。他方で賃金支払い額はほぼ一定だ。
輸入価格の上昇が顕著になったのは21年10月ごろからなので、その影響はここには完全に表われていない。22年1~3月期のデータを見ないと判断は難しい。
転嫁が完全にできず、他方で原材料価格が上がっているので、企業の付加価値が圧縮されている可能性が高い。このような状態では、賃金を引き上げることは難しい。