どこにも属せない…疎外感を感じる人は増えている

――映画ではニトラムは何かしらの障害をもっているけれども、それが何だったのか明確に描写されていません。実際に、マーティンの精神鑑定の判断も人により異なり、知的障害を指摘した医師もいれば、発達障害や精神病を指摘した医師もいたそうですね。

カーゼル監督:映画では、精神障害についてはっきりと線を引き、レッテルを貼ることをしたくなかったんです。それよりも、彼がどういう人物でどんな状況におかれていたかを理解するほうが大事だと思いました。精神障害よりも、彼の心理的状況を描きたかった。何が彼に事件を起こさせたのか、ニトラムの目を通して観客に問いかけたかったんです。

実在のマーティンも子どもの頃からイジメられて、仲間はずれにされて友だちがひとりもいませんでした。どこかに属したいのにどこにも受け入れてもらえず、孤独な人生を送っていた。昨今、彼のような人は増えていると思います。

『ニトラム/NITRAM』より
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――映画ではニトラムの精神科医がカウンセリングもしないで、母親の言うなりに薬を処方します。それも事実なのですか?

カーゼル監督:はい。マーティンはうつ病を患い、なにかしらメンタル的な問題を抱えていましたが、90年代はまだ色々なメンタルヘルスの知識がなく、患者が薬漬けになっていたようなこともあったようです。マーティンの家族もうつ病への偏見があり、薬さえ飲ませればよいと思っていたのかもしれません。

現在も、患者を深く診察せずに薬をただ与えるというメンタルクリニックはあると思います。もちろん、薬が効果的な場合もありますよ。しかし、マーティンの場合は薬を飲んだらすべてが解決するようなことではなかった。イジメられた経験、社会からの疎外感や孤独感、うつ病、メンタルヘルス……そういった様々な要因が複雑に絡み合っていました。