ゴルフクラブを買うように銃が買えた

――もし銃規制が厳しく、マーティンが銃を買えなかったら、彼は大量殺人を起こしていなかったでしょうか?

カーゼル監督:どうでしょうね。私が間違いなく言えるのは、オーストラリアでは当時、銃ショップへ行き、銃のライセンスがなくてもセミオートマチックの銃(※2)を買うことができたこと。ゴルフクラブや釣り竿を買うように銃が買えた。なぜ、一般人が兵器を簡単に手に入れることができるのでしょう? オーストラリアは銃規制を改革しなければいけません。

※2 セミオートマチックの銃:半自動式銃。引き金を一回引くごとに弾薬が一発発射され、同時に弾倉から次弾が送り出されて薬室に装填される。

――でも、1996年にマーティン・ブライアントが起こした事件の直後、オーストラリアは銃規制を強化しました。銃の販売条件を厳しくしたばかりでなく、セミオートマチックやオートマチックの銃を国内で禁止して、1997年までには政府が64万丁以上の銃を買い取ったとか。銃による自殺者や殺人は激減したと聞いていますし、事実、オーストラリアは銃規制において“アメリカのお手本”のように報じられています。

カーゼル監督:1996年の銃規制は一定の効果がありました。しかしすべての州が銃規制を施行しているわけではないし、銃規制反対派のロビー活動が盛んで、もう既にいくつかの銃規制が緩和されているんです。1996年から25年経った現在、銃の数はむしろ増えているんです。しかも、マーティンの事件を銃規制派の陰謀説だと唱える政治家まで出てきました。

だから、25年前のこの事件のことを私たちは思い出す必要があると思うんです。1996年以降に生まれた人たちのために、銃規制がされた理由、そして、銃規制を改革し続ける必要性を伝えなければいけないんです。

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“男らしさ”が加害性を持つとき

『ニトラム/NITRAM』より

――メンタルヘルス、孤独、欠点の多い銃規制のほかにも、“男らしさ”がニトラムを犯罪に追いやった要素だと映画は描いていますが、この考察も取材から生まれたのですか?

カーゼル監督:はい。オーストラリアでは、ある種の“男らしさ”が求められます。若く強い肉体をもったブロンドのサーファーが“男らしさ”の象徴。海のターザンみたいなタイプですよ。そういった男らしさにあてはまらない男性は、とても生きづらい。私もオーストラリアで育ち、男らしい男性に囲まれて育ちましたが、タフでマッチョでサーフィンやオーストラリアン・フットボール(オージーボール)ができないと社会に溶け込めないんです。

でもすべての男性がスポーツを好きなわけではないし、ほかのものに興味をもつ男性はたくさんいます。もしタフなサーファーになれなかったら、男性はどう生きていくのか? その答えはまだオーストラリアにはありません。この映画は、そんな男性像の正当性に対しても問題提起をしています。