ジェンダーギャップの原因は「気づいてないだけ」かも
いま紹介した奈良崎のような価値観は、珍しいことではないのではないだろうか。筆者も仕事相手と話をしていて「だってそれ嫁さんだよ、なんで色々説明しないとならないの」という言葉に絶句したことがある。もちろん妻への甘えであり、信頼なのだろうけれど、「わかってくれるよねだけで果たしてわかるのだろうか」と不安がよぎったものだ。
ただ、こうして整くんの言葉を見ていくと、家事についての池本にせよ、定年退職した奈良崎にせよ、「妻を苦しめたいから」「意地悪をしたいから」その状況になっているわけではないことがわかる。自分がその立場になってみることがなくて、その状況に気づかなかっただけなのだ。妻に甘えているだけだとわかっていないだけなのだ。逆なことをされたら自分がどう思うか考えたことがないだけなのだ。
ジェンダー関係なく、なにか嫌なことがあったとき、相手の立場に立ってみると、大きな気づきがあることがある。自分がされたら嫌なことは、人にしなければいいんだ。そう気づくだけで社会が優しくなっていく。
ドラマの1話、原作1巻1話で、妻と子供を省みていなかった刑事の薮に対して整が語った言葉がある。
「奥さんはあなたの無事を祈り身体を心配してた。あなたはそれを逆にしたことがありますか。奥さんの好きな花を仏壇やお墓に飾ってあげてますか。お子さんの好きな食べ物を供えてあげてますか。そもそも知ってますか。復讐じゃなく、そういうことに時間を使いましたか。まず、それをしたらそうですか」
怒りや、憎しみや、妬みや、嫉妬を、誰かへの攻撃という形にするのはやめよう。暴力にするのはやめよう。そこに費やす時間を誰かを思う時間に充てれば、きっといい方向にいく。整くんが語るのはそういうことだろう。
田村由美さんが生み出した久能整くんというキャラクターは、ドラマ放送前にも多くの人に気づきを与えてくれた。そして菅田将暉さんという生身の肉体を得てさらに、社会が優しさに向かえる仕組みを私たちに教えてくれているのだ。
田村由美さんインタビュー後編「『ミステリと言う勿れ』田村由美「事件解決より整が何を見て何を考え話すのかが大事だと思ってます」
文/FRaUweb編集長 新町真弓