安価で副作用の少ないイベルメクチンが認可されないのはなぜか

最新の科学的エビデンスをもとに分析
新型コロナ治療薬として期待されていたイベルメクチン。使用の是非については、たびたび論争が繰り返されてきましたが、結局のところ、コロナに効くのでしょうか。それとも効かないのでしょうか。免疫学の第一人者として知られる、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏が、最新の科学的エビデンスをもとに、この疑問に答えます。(本記事は3月31日発売の宮坂氏の最新刊『新型コロナの不安に答える』の抜粋記事です。)

関連記事:4回目接種はオミクロンに有効? ワクチンの感染予防効果を検証

     「K防疫」でコロナ抑制に成功していた韓国が感染爆発に襲われたワケ

Q:安価で副作用の少ないイベルメクチンが認可されないのはなぜか?

A:イベルメクチンは、寄生虫を排除するための駆虫薬です(開発者の大村智博士はこの業績で2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました)。ところが、試験管内の実験(※1)で新型コロナウイルスを細胞に感染させるときにイベルメクチンを共存させると、感染がきれいに阻害されたのです。このことから、イベルメクチンが新型コロナウイルスの治療にも有効かもしれないということで、アメリカで臨床試験が始まりました。

イベルメクチン開発者の大村智氏(Photo by gettyimages)

当初の成績は良好で、イベルメクチン投与で重症化が止められるのでは、と大きく期待されました。ところが、その後の二重盲検方式で行われた臨床試験では、この結果は再現されず、むしろ、あまり芳しくない結果となっています。

さらに、この間、臨床試験でイベルメクチン投与により死亡率が9割減となったことをエジプト人研究者が報告したのですが、データの信憑性に疑義があるという指摘があり、その論文が撤回されました(※2)。この事件は、『Nature』では、本論文のデータがきわめてずさんでまったく信用できないと酷評されています(※3)。

さらに、その後、イギリスから発表されたイベルメクチンの効用を示す論文(※4)が、このインチキ論文のデータを参考にして書かれていたことがわかり、その論文も信用できないとなりました。これに加えて、文献的解析では世界的に最も信頼度が高いとされる『Cochrane Library』も「COVID-19の治療にはイベルメクチンの使用を勧めるだけのエビデンスがない」と結論づけています(※5)。

 

また、薬理学的な解析からも、イベルメクチンが新型コロナの治療や予防に効くのかどうか、疑われます。

ある薬理学専門誌に載った論文(※6)では、「イベルメクチンは試験管内では2マイクロモルという濃度で新型コロナウイルスの増殖を50%阻害するものの、この濃度は通常のイベルメクチンの服用によって得られる体内濃度の約30倍であり、理論的にはたとえ通常の10倍量を1回服用しても必要濃度には達しない」と指摘されています。つまり、通常服用する量のイベルメクチンでは、新型コロナウイルスに影響を与えるだけの血中濃度が得られないということです。

(※1)Caly, L. et al, Antiviral Res. 178, 104787, 2020
(※2)https://www.researchsquare.com/article/rs-100956/v3
(※3)https://www.nature.com/articles/d41586-021-02081-w
(※4)Bryant A et al, Am J Ther, 28(4):e434, 2021
(※5)https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD015017.pub2/full
(※6)Clinical Pharmacology & Therapeutics, 108(4):762, 2020

関連記事