新型コロナ「主たる感染ルートがトイレ」説は本当なのか?

トイレ使用時に注意すべきこと

「新型コロナウイルスの主な感染経路は糞口感染である」という言説があります。果たして、これは本当なのでしょうか。免疫学のエキスパートとして知られる宮坂昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)の最新刊『新型コロナの不安に答える』から、現在得られる最新のエビデンスをもとに、この疑問に答えた箇所を特別に公開します。

Q:主たる感染ルートがトイレであるという説があるが本当か?

A:感染症や免疫学の専門家でない一部の方々が「SARS-CoV-2の主な感染経路は、糞口感染で、ウイルスが大便とともに体外に排出されて、それが口から入るために感染をする」「このウイルスは、トイレを拠点にして感染を広げる」などと言っていますが、これはどの程度正しいのでしょうか?

文献を調べてみると、糞口感染は、可能性として否定はできませんが、かなり確率が低い話であることがわかります。

この糞口感染の可能性が大きくクローズアップされたのは「香港の高層アパートで異なる階の複数の住人が、おたがいにまったく接触がなかったのに感染した。調べてみると、トイレの排水管がつながっていた複数の家での感染であった。もしかすると、トイレの排水管を介して糞便の飛沫が到達して、感染が広がったのかもしれない」という報告(※1)からです。

しかし、この報告では、採取されたウイルスのゲノム解析がなされていないために、はたして1種類のウイルスが複数の家に広がったのかが不明であり、しかも、感染発覚後にトイレや居室を消毒してしまったために、それぞれの家で実際にウイルスが見つかっていません。

つまり、同じウイルスがトイレの排水管を介して複数の家に広がったというのは推測にすぎず、実際には証明されていないのです。この例からは、ウイルスがいわゆる糞口感染をする(大便からウイルスが排出されて口に入り、感染が成立する)かについては、断定することができません。

 

一方で、新型コロナ感染患者の大便からは、ウイルスの存在がしばしば確認されています。PCR検査で大便を調べると、報告によって陽性率が異なりますが、10~50%ぐらいにウイルスが見つかり、特に、下痢便の場合には半数ぐらいでPCR陽性になるとされています。そして、試験管内では腸管の細胞にSARS-CoV-2を感染させることができ、生体内でも腸管を含む消化管内壁の上皮細胞でウイルスが増殖していることが報告されています(※2)。

腸管の上皮細胞にはSARS-CoV-2の感染に必要なACE2とTMPRSS2の両方の分子が発現しています。さらに、腸管細胞内にウイルスが感染していると、周囲の組織に炎症が見られ、その程度はウイルス増殖の程度におおむね比例していることもわかっています。

つまり、SARS-CoV-2は、確かに腸管に感染してそこで増殖し、その一部は糞便に排出されます。そしてウイルスがしばらくは体内に持続して存在し、腸管上皮細胞がウイルスの「棲み処」となる可能性も示唆されています。

(※1)https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-0928
(※2)Guo, M. et al, Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 18:269, 2021

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