「見たことあるけど見たことない」を作る

悩み試行錯誤しながらも、彼女は数多くの有名アーティストのMVを制作し、見事にその世界観を作り上げてきた。主に若者向けの音楽に携わってきた彼女に、山下達郎「さよなら夏の日」という名曲のMVの制作依頼が舞い込む。

「正直、曲を聴いたときは、この名曲にどう私がアニメーションをつけるんだろうと頭を悩ませました。それまでのMVと違うのは、すでにこの曲には多くのファンがいて、それぞれの中に思い入れがあるということです。そこに対してビジュアルをつけるというのはとても責任のあることだと思っていたので、絵コンテを考える際もとても意識をしました。この曲は、”プール”や”雨”という表現からドラマが浮かんできやすいものだったので、『夜に駆ける』と同様に、その物語をどのように私の世界観に落とし込むかを考えて作りました」

出典/youtube 山下達郎「さよなら夏の日」Warner Music Japan
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米津玄師「カナリヤ」は、実写とアニメーションが混ざる、少し特殊な作品である。

「まず最初に、自分がずっと聴いていた米津玄師さんの音楽に携われるということに、嬉しいながらもプレッシャーを感じていました。さらに、監督は是枝裕和さん。自分なんかがこの布陣に入っていいのかなって。MVでは、カナリヤを使うことは決まっていたので、カットのイメージをもらった上でカナリヤのデザインを何案か出しました。撮影が終わったら、是枝監督と都度都度相談をしつつ、カナリヤのアニメーションを素材の上に描いていく。このときに気づいたのが、カナリヤの動きって本物に忠実に描くと、あまりに羽ばたきが早くてまるで虫のように見えてしまうんですよね。なのでアニメーションのときは本物のカナリヤよりも動きを遅く落とし込む。そうすると、自分の思うカナリヤの生命ある姿がアニメーションとして動き出してくれる。それがすごく面白かったですね」

日本のポップ・ミュージックの世界観を壊さないままに、自分の作家性もしっかりと打ち出し続けてきた、藍にいな。ポップとアートの中間点を、彼女はどのように探ってきたのか。

「ポップとアートの中間というのは、私の活動の上でも軸にしている考え方です。ポップであるところを最初に考えてしまうと表層的なものになってしまうと思うので、まずは自分の感覚からアート性の高いものという観点で発想をしていき、形にする段階で理論立てていく。人に魅力的に伝えるためにはどのような形にしたらいいのか、粘土をこねるようにして表面を整えていく感覚ですね。人に伝える上で大事にしていることは『見たことあるけど見たことない』という感覚値です。懐かしい感じはするけど、こういう組み合わせって見たことなかったな、と新しい発見をさせつつも反発させない感じ。どこかで可愛らしさを入れたりしてバランスを取っていますね」

藍にいながMVを作る上でもっとも大事にしていることは何だろうか。

その楽曲がもつ世界観の大きさを間違えないようにしようという意識は常にしていますね。たとえば、すごくこじんまりとした、一人で部屋の中で作ったような曲に対して壮大なビジュアルをつけてしまったら、すごくチグハグな感じになってしまう。逆もそうです。音楽のスケール感は間違わないように作っています。音楽に明確な形をつけるというのは、面白くてやりがいのある作業だと思う一方で、それだけ責任が伴うことだと思って日々制作に取り組んでいます」

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藍にいなさんが製作パートナーとして出演しているMacBookPVこちら