遺伝がすべて、ではない

私は講演などで、よく遺伝子の話をします。「背の高さや容貌、性格、考え方など、遺伝的な要因でかなりの部分が決まっています」というような。新庄さんにしても、恵まれた運動能力や気質には、多分に遺伝的な要因が影響していると思います。けれども、遺伝がすべてではありません

残念なことに、私が遺伝子の話をすると、決まってこんな反応が返ってきます。
「じゃあ、うちの子の頭が悪いのは、親の遺伝子のせい? 努力しても無駄なんですね」
「じゃあ、鳶が鷹を産む、みたいな奇跡が起こることは、ほぼ期待できないんですね」
「じゃあ、出来の悪いうちの子にも、父親の持つエリートの遺伝子があるはずですよね」

この「じゃあ」に、非常に悲しい誤解があります。遺伝子はコピー機と違って、まったく同じものを複製することはありません。また、遺伝子の影響の強い要素と、そうではない要素があるのです。そこは正しく理解していただきたいですね。

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そもそも「遺伝で決まっているのなら努力しても無駄だ」といった考え方は、遺伝的な理由でハンディキャップを負って生まれてきた子どもたちに対して失礼です。あるいは、平均的な遺伝子を受け継いだ子どもに対して、「親の優秀な遺伝子はどこにいった?」と嘆くなんて傲慢ですよね。人間には等しく、標準的な環境が与えられればすくすくと育って、それなりに幸せになるためのプログラムが備わっているのです。そんな最低限の幸せを担保してくれているのが遺伝子の力なのです。

繰り返しますが、新庄さんは失敗や挫折をいい経験として力に変えてきた人であるはずです。数々の失敗を含め、何が起こっても自分で引き受け、人生のシナリオのなかでプラスに転じることに喜びを見出しました。そういう力は、実はどんな子にも備わっている、担保された力なのです。

失敗や挫折をいい経験として受け入れることで大きな力になる 『スリルライフ』より

大切なことは、第一に、自分の思い通りに子どもを動かそうと先回りしないこと。第二に、親の関与は必要最低限の見守りに留め、自分で考え、思い通りにやらせてみること。この2つを鉄則にすれば、子どもはたくさんの失敗を経験しながら、本来の才能を開花させることができるはずです。

そういった視点で『スリルライフ』を読むと、子どもと向き合う際のヒントが得られるように思います。おもしろい本ですよ。私はたくさん付箋を入れながら、2度読んでしまいました。

スリルライフ
1章 0.1%の可能性を信じて
2章 一歩踏み出すだけで世界は変わる
3章 最高の結果は最高の準備から生まれる
4章 逆境こそ最大のエネルギー
彗星の如く日本の野球界に戻ってきた「BIGBOSS」新庄剛志氏はいったい何を考えて今に至るのか。自身の言葉で綴られる「その生き方」。「どんなふうに育ったんですか?」「なぜバリ島から戻ってきたの?」「整形はなぜ?」といった素朴な疑問まで答える濃厚な一冊。(マガジンハウス)

取材・文/千葉潤子