ワリは現在、戦術スナイパー特殊部隊の司令官を務め、ロシア軍を迎え撃つべく備えている。幾多の死地を乗り越えてきたワリに恐怖心はない。
アフガニスタンやシリアで、共に戦った兵士たちが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ姿をワリは見てきた。殺されるかもしれない恐怖感と、「自分が殺した敵も同じ人間である」という罪悪感に心を蝕まれ、戦場を去る者もいた。
だが、ワリは違う。昨年発表された自伝『MISSION:SNIPER』には、ワリの本音が綴られている。
〈私にとって戦場は家のようなもの。私が家のように寛げる場所は二つ:湿った森の中と、戦場の硫黄の煙の中だけです〉
妻子を残し、命を失うかもしれない戦場へと戻ってきた。ワリが戦う理由は隣人を救うという義侠心だけでは説明がつかない。戦場こそが、彼が生きる場所なのだ。ワリは今日もスコープを覗き、敵に狙いを定めている。
『週刊現代』2022年4月2・9日号より