「戦争を避けるにはどうすればよいのか」アインシュタインに対するフロイトの答え

人間社会には権利以前に暴力があった…
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人の心から衝動を引き剥がせるか?

このように話を進めてきたうえで、アインシュタインは、この手紙の中心となる究極的な問いをフロイトに投げかける。これこそ、彼が心理学の大家フロイトに聞きたかったことだろう。

人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?

『ひとはなぜ戦争をするのか』より

アインシュタインは、どうにかして、憎しみや破壊への衝動に突き動かされてしまう人々の心を、戦争から引き剝がしたかったのだ。ただし、この質問には、2つの補足がある。1つめは「知識人」についてだ。

私の経験に照らしてみると、「教養のない人」よりも「知識人」と言われる人たちのほうが、暗示にかかりやすいと言えます。「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすいのです。なぜでしょうか? 彼らは現実を、生の現実を、自分の目と自分の耳で捉えないからです。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練り上げられた現実を安直に捉えようとするのです。

『ひとはなぜ戦争をするのか』より

【写真】ヒトラーと会見する前英国王・エドワード8世1937年10月。ヒトラーの招待で訪独したウインザー公(前英国王エドワード8世・中央の人物)夫妻。当時の知識層や上層階級には親独派が少なくなかった photo by gettyimages
 

これは、ネットで情報が氾濫する現代では、「知識人」に限られないことかもしれない。そして、2つめの補足は、この手紙の主題が「国家間の戦争」であるということだ。

もちろん、人間の攻撃性はさまざまなところで、さまざまな姿であらわれるのを十分承知しております。例えば、内戦という形でも攻撃性があらわれるでしょう。事実、かつてはたくさんの宗教的な紛争がありました。現在でも、いろいろな社会的原因から数多くの内戦が勃発しています。また、少数民族が迫害されるときもあります。しかし、私はあえて国家間の戦争をこの手紙で主題といたしました。……この問題に取り組むのが、一番の近道だと思ったのです。

『ひとはなぜ戦争をするのか』より

国家間の戦争については、それまでにもグロティウスの『戦争と平和の法』をはじめとする多くの蓄積があった(ちなみに、国家間に限らない現代の国際紛争については『国際紛争を読み解く五つの視座』を参照)。しかし、アインシュタインは、戦争を避けるために、「政治では手が届かない方法、人の心への教育という方法でアプローチすること」を考え、フロイトに尋ねたのだった。

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