一方の日本は、金融正常化どころか量的緩和策から脱却する道筋がまったく見えておらず、金利を上げたくても上げられない状況にある。今は指し値オペ(一定以上の金利になった場合、無制限で国債を買い取って金利を抑制する措置)で金利を低く誘導しているが、金利を上げてしまうと、大量の国債を抱える日銀は、実質的な損失が発生する。
日銀は簿価で管理しているので、表面上、損失を計上する必要はないが、市場がそう解釈しないのは当然のことである(民間企業に対しては厳格な時価会計を要請しておきながら、中央銀行だけは例外というのは、基本的に通らないと思ってよい)。
政府も1000兆円という巨額債務を抱えており、金利が上昇すると政府の利払い費が急増するため、金利上昇は望ましくない。民間に目を転じても、多くの国民が変動金利で住宅ローンを組んでいるので、金利上昇は返済額増加につながる。金利が急上昇した場合、無理なローンを組んでいる人の中には、支払いが困難になるケースも出てくるだろう。
市場は日本が身動きが取れない状況であることをよく理解している。金利を意図的に低く誘導するということは、金融緩和を積極的に行うということであり、通貨価値の減価、つまり円安につながる。
(2)実需買いの減少
金利差によるドル買い需要があっても、それを相殺するドル売り需要があれば為替はもう少し安定する。ドル円市場における有力なドル売り要因としては、輸出産業の実需というものが存在していた。
製品を海外に輸出している企業は、たいていの場合、販売代金をドルで受け取る。輸入代金の支払いもドル建てが多いので、海外からの仕入れに必要な分については、受け取ったドルをそのまま支払いに充当する。だが国内の仕入れ先や従業員の給与は円で支払う必要があり、輸出企業は常に受け取ったドルの一定割合を日本円に両替しなければならない。これはドルを売って円を買う取引になるので、円高要因になる。