1ドル=125円超え…日本人の生活を直撃する「円安」がここまできた「4つの理由」

加谷 珪一 プロフィール

ところが近年は、日本企業の競争力が低下し、輸出が低調になっている。加えて、コスト対策から製造拠点の海外シフトを進めたことで、輸出の比率が低下した。海外の現地法人が販売して得たドルの多くは日本国内には送金されず、現地法人が保有するので、以前のようなドル売り需要は発生しない。

また、輸入を専門に行う企業の場合、常にドルを買って円を売るという取引が必要となる。日本経済は輸出主導型から消費主導型へのシフトが進んでおり、多くの消費財を輸入で賄っている。実需の取引という点ではむしろドル買い需要が高まっている状況だ。

 

(3)有事の円買いが消滅

貿易実需での円買いに加えて、長く円高要因として作用してきたのが、ドルの代替手段としてのニーズである。何らかの理由で米ドルに信用不安が発生した際には、一時的にドルが売られ、代わりの通貨を購入するという動きが見られる。かつての日本円に対する信頼は高く、ドルが売られる時には、真っ先に日本円が買われていた。

こうした動きが重なると、投機筋の中には、米国の景気が足踏みするとの思惑が発生しただけで、積極的に円を買うところも出てくる。市場では有事の円買いという流れが定着し、一定期間ごとに必ず円が買われるというのが日常的な光景となった。

しかしながら、日本経済の地位低下に伴い、徐々に日本円は安全資産としてみなされなくなっている。米ドルに次ぐ通貨はユーロであり、日本は中国にも経済規模で抜かされており、人民元との順位が逆転する可能性も示唆される状況だ。

今回のウクライナ侵攻で円がまったく見向きもされなかったのは、こうした環境の変化が大きく関係している。日本円の地位が本当に低下したのかはともかく、かつてのように、ドル不安=円買いという図式にはなっていないことだけは確かであり、これは確実に円安をもたらす。

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