2022.05.05

年収100万円未満という人も…“あまりに割にあわない”「ピアノ講師」という職の実態

秋山 謙一郎 プロフィール

芸術か、教育か

もっともA先生にとってピアノ講師業は、あくまでも「演奏家である自分のDNAを後世に伝える」活動の一環だ。あくまでもみずからの立ち位置は演奏家であり、その目指すところは芸術だ。

「お金よりも大事なもの、それを生徒さんにも伝えていきたいです。音楽とはいかなるときも平和のためにあるもの。それをわたしはピアノで伝えるだけです」

芸術とは生き方であり哲学である。ゆえにビジネスとは相容れないという。

この芸術家肌のA先生とは異なり目指すは教育と言い切るのがB先生(55)だ。関東郊外で活動するB先生は、自宅でピアノ教室と小中生を対象とした学習塾を併業する。大人のレッスン生は取っていない。

「もともとはピアノ教室のみでした。ご父兄の方からのご要望もあり学習塾も開業しています。学習塾のほうは教え子で数学に強い子が中心になって講師を引き受けて貰っています」

自宅の空いているスペースを利用した学習塾の開業で、「経営者としての視点」を学んだという。

「自分以外の誰かに働いてもらい収入を得ることに最初は抵抗がありました。でも教え子に働く場を作れたこと、生徒さんもピアノだけ、勉強だけではなく、深くその子に関わっていける。わたし自身が勉強させて頂いています」

毎日14時から21時まで、最低でも4人、多いときは6人にレッスンする。休みはほとんどない。合間を見て学習塾の経理状況を把握する。1人の講師に対して大勢の生徒を教えられる学習塾はともかく、ピアノ教室は1対1でのレッスンだ。収益性は低い。

「ピアノで食べていく人はそうそういません。でも音楽という教養を身に着けて欲しい。人生が豊かになりますから。だからこそ立派な社会人になって欲しい。そのための学習塾です」

ピアノを通して芸術、教育に重きを置くA先生、B先生とは異なり、ピアノ講師とはあくまでもビジネスでありサービス業だと言い切るのがC先生(45)だ。ピアノや音楽とは楽しむものであり、そこに、ともすれば令和の今なお、時折存在するという前時代的な師匠(ピアノ講師)と弟子(レッスン生)という関係性に基づいたレッスンを嫌う。

「昭和の時代ではあるまいし……。ピアノ講師を師匠というのなら弟子からお金取ってはいけません。師匠らしく弟子を養うべきではないですか」

 

C先生によると「レッスン生」からはお金(月謝や学費など)を徴収しても構わないし、講師によるサービス提供というお金が介在する関係だが、「弟子」となると、それは違うと言う。

「昔も今も、大人でも子どもでも、弟子という感覚でピアノを習う人はまずいないでしょう。ピアノ講師がまず理解すべきはレッスン生は“お客様”だということです」

お客様だからこそレッスンの時間は飽きさせず、音楽の楽しみを伝え、短期間でよく知られた曲をきちんと弾けるようにレッスンする。だが1日に3人、4人のレッスンでもその疲労は大きいという。C先生のレッスンは理想だがはたしてレッスンが成り立つのか。

「そこを成り立たせるのがプロ(のピアノ講師)ではないですか?」

記者の質問に何を言うかという表情で語るC先生は、「そもそも1日に3人、4人のレッスンで疲れたということ自体がピアノ講師側の甘えだ」と言い切る。

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