「着物は私に似合っていた」 

―――着物を着てみて、どうでしたか? 
「背中がまっすぐに立ち、腰が落ち着いて、それが精神にもつながるような気がしました。サムライもそうだったのかなと感じましたよ。それに、着物は私に似合っていたと思います(笑)」 

そして彼は、友人があの日の写真をもとに作ってくれたという音楽付きのスライドショー動画を見せてくれた。自分では見られないはずなのに、すごく嬉しそう。 
「あの日は本当に幸せでした。着物を通して日本人の温かい親切心に触れられたこと、私も家族や友人たちもそれを喜んでいるのです」 

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「あの日は本当に幸せでした」。ダグワさんの喜びが自分の喜びのように報われる。作画:森優子

ダグワさんが留学先として日本を選んだのはサムライや着物への憧れがあったからかと思われるかもしれない。だが、そうではない。彼は、モンゴルで視覚障がい者向けのコンピューターソフトやアプリ、システムなどを作る会社を立ち上げるために日本に来た。 
「似たようなものはあります。でも、まだまだ不便なのです。私は目が見えないので、どんなものが必要で、どうすれば使う人がもっとハッピーになるかがわかります。今のモンゴルの状況をもっとよくしたいです」 

ーーそれが、なぜ、日本だったのか。 
日本人の勤勉さや、経営するための高い意識を学びたかったためです。そして今回の着物体験を通して、文化と人にもっと触れて、もっと理解したいと思うようになりました」 

こんなやりとりを経た今の私はと言えば、なにやら申し訳なさに似た感情が沸く。日本に憧れ、日本を選び、彼のように喜んでくれる人がいることがありがたくてたまらない。同時に、彼の憧れに値するほどの日本であるかとか、自分のハリボテ感に後ろめたさを感じるとでもいうか。でもだからこそ、こんな気づきも含めて、このような充実感を糧にしないともったいないとも思うのだ。そして、これからももっと機会を見つけては、誰かの腰に帯をぐるぐる巻きつけてしまおうなんてことを考えている。 

その翌日のこと、ニャマフーさんから連絡が入った。「モリさーん、私の着物姿の写真をSNSで見た友だちがですね、自分も着物を着るのが夢だったと。えーと、モロッコからの留学生で、ムスリムなんですが……」 
おっしゃあ。また着付け隊、出動だ。  

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