直系店には、どの店もラーメン二郎の精神が貫かれている。
少しはずれたところへ行くと、ちょっと違う店内の雰囲気のところもあるが、でも基本精神はぜんぶ同じである。
私に聞こえてくるラーメン二郎の基本精神はこれである。
「食べられるなら、たくさん、食っていきなよ」
そういう声である。
「働いてるんだよ、時給330円で」
三田本店に行くと、「総帥」と呼ばれている創業者に会える。山田拓美氏。
先だってドキュメンタリー『ラーメン二郎という奇跡〜総帥・山田拓美の“遺言”〜』が放送されていた(2022年3月30日深夜・フジ系列「NONFIX」)。
カリスマ的存在である。
朝は、店に立ってラーメンを作っている。午後にも手伝っている姿を見かける。
厨房内の人が少ないときは、総帥自身が「助手」をつとめていることもある。
人が多いと、ただ立って喋っていたり、雑用をしていたりする。
いちど、日傘を運んでるのを見たことがある。
2020年の9月9日、30度を越える暑い日。
三田本店では、日射しのきついときには「日傘」を貸してくれる。列の最後尾あたりに日傘が大きなバケツにざっくり差されていて、それを借りて、並んでるあいだ、差していていいんである。入口脇に返すバケツがある。
その返された日傘の束を、最後尾のバケツまで、総帥みずからが運んでいたのだ。
そのおり常連客に、そんなことやってるんですかと声を掛けられ、嬉しそうに総帥は「働いてるんだよ、時給330円で働いているんだ、時給330円」と答えていた。
総帥は、いつも何だか楽しげな雰囲気の人で、おもいついたことを楽しそうに何度でも喋っている。見てるだけで楽しくなる。
時給330円と聞いて、中でラーメンを作っていた若旦那(総帥の息子)が、そんな安いわけないだろ、と呟いていたのだが、ずっと時給330円を繰り返していた。