「いつものこと」と流すたび、心が壊死していく

私にはジェイダをイジった(?)クリス・ロックの意図も、妻に暴言を吐かれたことに激怒してクリス・ロックをビンタし暴言を吐いたウィル・スミスの真意や気持ち、主催の米映画芸術アカデミーの対応や言い分、この事件の裏側にどんなことがあったのかもよくわからない。

平手打ち後、主演男優賞の発表直後のウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミス。おでこを寄せ合う。photo/Getty Images

もちろんジェイダの気持ちもすべてはわかるわけではない。ただ超限定的だけど、ジョークを装って外見をイジられた瞬間からその後数秒の彼女の気持ちは、痛いほどわかる。暴言を聞いて「またか……」「最低!」と屈辱的な気分になったすぐ後で「ここで私が大人の振る舞いをすればいいわけね?」と絶望感が襲うのだ。ジェイダはお約束通り、苦笑して流す。そんなの私は全然、気にしない。いちいち「傷ついた」なんて目くじら立てて怒ったりしない。だっていつものことだから……。

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アトピー持ちの私も外見にまつわる「イジり」を数えきれないほど経験してきた。笑いのネタにされるだけでなく、見当違いの陰口や、知人や赤の他人からの無邪気な言葉、助言にチクチク微小なダメージを受けるのは、50代になっても変わらない。

仕事関係の飲み会の席で「なんだ、もうデキ上がってんの? 飛ばしすぎだよ!」と、室内の熱気でいつもより赤くなった顔を揶揄される(私は、アルコールにもアレルギーがあるので1滴も飲めない)。みんながどっと笑う中、「ああ、またか…」と脱力しつつ、心の中でぐっとこぶしを握り直した私はこう答える。
「いやあ、楽しくて、いい年してちょっとテンション上がっちゃって!」