ウィル・スミスの「平手打ち事件」で、日本人が見落としている「重要な論点」

ハリウッドが受けた「思わぬ痛手」
池田 純一 プロフィール

「仕込み」だと思った観客たち

もっとも、あの事件の中継を見ていた人たちなら理解できるだろうが、スミスが壇上に駆け寄り、彼の妻をジョークのネタにしたロックを平手打ちしたときには、多くの人が、それもまた一連のジョークの仕込みなのだろう、と思ったに違いない。

そもそも今回の授賞式のプロデューサーであったウィル・パッカーですら、そう思ったのだという。パッカーによれば、ロックは、ジョークのネタを事前にパッカーにも明かしてはいなかった。つまり、会場にいた人たちはほぼ皆、目の前で何が起こったのか、理解が追いついていなかったのだ。

今回の授賞式のプロデューサーを務めたウィル・パッカー[Photo by gettyimages]
 

呆然としたまま主演男優賞の発表まで流れ込み、オスカー受賞後のスミスのスピーチの中で平手打ちによる混乱についての謝罪がなされたことで、ようやく、あぁ、あれは仕込みじゃなかったんだと了解できた、というのが、あのとき会場にいた人たちの、そして中継を見ていた世界中の人たちの率直な気分だったのではないか。

翌日になって、スミスを非難するもの、擁護するものと、賛否両論が飛び交うようになったのもそのためだ。

平手打ちされたロック自身、事件後初めて公式に姿を表した3月30日のボストンでのコメディショー公演後、「何が起こったのか、いまだ自分自身処理している最中だ」と応えていた。当事者ですら本当のところ、何があのとき起こっていたのか、理解しきれていない。

ただ、どうやら平手打ちしたスミスが即座に会場からつまみ出されずに済んだのは、プロデューサーのパッカーの機転によるものだったらしい。パッカーがABCの『グッドモーニング・アメリカ』――ABCはオスカー受賞式の中継を行ったテレビネットワーク――に出演して答えた中で、スミスが会場から追い出されれば事態をさらに悪化させるだけのことで、そんなことはロックも望むはずがない、と考えたからなのだという。

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