ウィル・スミスの「平手打ち事件」で、日本人が見落としている「重要な論点」

ハリウッドが受けた「思わぬ痛手」
池田 純一 プロフィール

ちなみに傷害事件として扱われれば、スミスは管轄のLAPDによって連行されることになるのだが、あの程度の平手打ちでは暴行といっても軽罪(misdemeanor)の範囲内であり、暴行された相手が訴えない限り警察がでるほどのものではないということだ。そしてロックは、少なくとも今のところ、スミスを訴えてはいない。であれば、パッカーの判断は適切だったということになるのだろう。

とはいえ、これらはいずれも関係者がそれぞれの立場で語っていることに過ぎない。それらの内容の精査を含めた判断がアカデミーに任されることになった。だが、そうしたアカデミーによる判断・処分が公表される前に、スミスはアカデミーからの脱退を公表してしまった。

アカデミーはどう対応するのか?

これによって、アカデミーもまた、難しい立場に立たされてしまった。

というのも、スミスによるアカデミーの脱退発表は、PR戦への対処としては、先手を打たれたかたちになったからだ。

アカデミーがスミスに対して行う処分として取沙汰されていたのは、アカデミーからの除名や、今回授与したオスカーの取り下げ、などだ。

近年、除名処分を受けた人といえばハーヴェイ・ワインスタインやビル・コズビーの名がまず思い出されるのだが、彼らの理由はセクハラや性的暴行である。もしも今回、アカデミーの判断でスミスが除名処分された場合、ウィル・スミスという名は、彼ら2人の名と同列に扱われることになる。さすがにそれはスミスにとっても不本意なことだろう。

性的暴行で起訴されたハーヴェイ・ワインスタイン[Photo by gettyimages]
 

それくらいなら、自分の意志で脱退するほうがはるかにましだ。自ら起こした事態に自ら責任を取る。極めて「男らしい」対応だろう。その方が人びとの同情も得やすい。

実際、スミスを擁護する、あるいはそこまでいかなくとも、彼に同情的な意見を表明している人たちの論点は、この「男らしさ」を(toxicではなく)肯定的にとらえたものが少なくない。彼が今回取った行動は、妻の名誉のためのものだった。つまり「男らしい」というよりも「人間らしい」行動だったということだ。

関連記事