「繰り上げ受給」の意外なデメリット
たとえば、令和4年度の老齢基礎年金額は、保険料を40年納めた場合、65歳で77万7792円ですが、60歳から受給して24%減額されると59万1122円になります。
この金額で60歳から年金を受給し始めると、79歳までしか生きない場合は、65歳受給や繰り下げ受給よりも一生涯で受け取る年金総額が一番多くなります。しかし、80歳を超えて生きた場合は、65歳以降に受け取り始めた人にあっという間に追い越され、85歳になると75歳からもらい始めた人にも追い越され、長生きすればするほど受取総額に差がついてしまいます。

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さらに繰り上げ受給は、一生少ない年金をもらい続けるだけでなく、実はその外にもデメリットがあることを知っておくといいでしょう。
まず、年金を早くもらう場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金をセットで繰り上げなければならないルールがあります。つまり、繰り上げを選択すると老齢基礎年金のみならず、老齢厚生年金も一緒に減額されます。
1961年4月1日以前生まれの男性と1966年4月1日以前生まれの女性には60代前半にもらえる特別支給の老齢厚生年金がありますが、これも繰り上げした時点で老齢厚生年金に吸収され減額されてしまいます。
また、60歳~65歳の間に障害状態になった場合、障害基礎年金がもらえません。自営業の妻が繰り上げ受給を選択した場合は、60代前半で夫が亡くなったときに支給される寡婦年金がもらえなくなるのです。サラリーマンの配偶者も、配偶者と死別した場合65歳になるまで遺族厚生年金を併給することができず、どちらかを選択することになります。
これら数々のデメリットを考慮すると「もらえるものは早くもらう」という発想のみで、受給を早めるのは危険だと思います。