新知見が謎をますます深める!? 実は定義さえできていない「遺伝子」

生命本質に迫る「古くて新しい問い」

遺伝子とは何か?——そんな問いも、現代の私たちからすると"いまさら感"漂う気がしますが、実は遺伝子に関する知見が深まるほど、遺伝子に関する謎も増えていっている、ということをご存知でしょうか?

「遺伝子を考えることは、生命の本質とは何なのかという、人類誕生以来の思索に通じる」という著者に、遺伝子研究と遺伝子の謎について語ってもらいました。

いま、なぜ「遺伝子とは何か」なのか?

遺伝子という言葉は、いまや日常語である。「この会社には、〇〇という遺伝子が受け継がれている」とか、「最強〇〇遺伝子!」とかいったフレーズは世にあふれている。「遺伝子とは何か?」などと問うてみても、ブルーバックスの読者の皆さまには、何をいまさら感あふれる愚問のように聞こえるだろう。しかし、である。いま、改めて問う。

我々は、本当に「遺伝子とは何か」を知っているのだろうか?

たとえば、以下の遺伝子の説明のうち、常に正しいと言えるものはどれか、おわかりになるだろうか?

  1. 遺伝子は生物の形質を親から子へと伝えるものである
  2. 化学物質としての遺伝子はDNAである
  3. 遺伝子とはDNA配列中のタンパク質に翻訳される領域である

常識的に答えるなら、すべて〇となりそうな記述ではあるが、実は現在提唱されている新しい遺伝子の概念からすれば、いずれも常に正しいと言えるものではないのである。そして、もっと言うなら、そういった新しい遺伝子の概念自体、すべての科学者が納得する強固なものとも言い難いのである。言い過ぎかも知れないが、単純に総括するなら、一体、何が厳密な意味で遺伝子の定義なのか、誰にもわからない状態ということである。

【写真】遺伝子は形質を伝えるもの?遺伝子の厳密な意味での定義はなされていない!? illustration by gettyimages

遺伝子の数はブレブレ!?

それはこんな事実にも象徴されている。ヒトゲノムの解読が最初に発表されたのは2001年のことだったが、その際、2本の論文がこれを報告し、ヒトゲノムに存在する遺伝子の数はそれぞれ約31,000個および26,588個と予想された。

次いで2003年には、より詳細なゲノム配列情報が確定されたが、それに基づき推定されたヒトの遺伝子数は22,287個であった。そして、さらに約20年後の現在、2003年当時の遺伝子に準じた数は、アメリカ合衆国のRefSeqデータベースで20,203個、ヨーロッパを中心としたGENCODEデータベースで19,982個となっており、Wikipediaでは 63,494個である(Wikipediaの数字は後述するが基準がちがうため大きく異なっている)。

ヒトゲノムの塩基配列自体は、2003年度版から、それほど大きく変わっていないにもかかわらず、遺伝子の数はブレブレである。ヒトゲノムに携わっているのは、生命科学の研究者の中でもより選りの俊英ばかりであるが、その人たちが20年間取り組んでもこの有様である。

つまり何を遺伝子と考えるか、その数をどう数えるかということが、現在でもきちんと定まっていないのだ。

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