2022.04.14

「隠れ身の術」はこうやっていた…! 「本物の忍者」の“意外な実態”とは

最新の研究が解き明かす

2012年以来、文理融合型の学術的・実証的な「忍者」研究を進めてきた三重大学国際忍者研究センターが『忍者学研究』(中央公論新社)を刊行した。山田雄司・三重大学人文学部教授に、研究を通じてわかってきた忍者の実態について訊いた。

[PHOTO]iStock
 

フィクションの産物かと思いきや…

――山田先生の講義は学生に非常に人気が高いそうですね。

山田 学生に忍者のイメージを訊くと『NARUTO』や『忍たま乱太郎』や様々なショーで培った「黒装束で手裏剣を投げ、忍び込む」といったものを挙げることが大半です。実際の歴史における忍者はそういうものではなく、しかし「忍ぶ」という精神性を持ち、日本の歴史で重要な役割を果たしてきたことを知ると感銘を受けるようです。

忍者のイメージは時代によって変わっています。あるときは秘密裏に暗殺を担う孤独で疎外された存在、あるときはヒーローとして描かれてきました。私たちの研究ではフィクションで描かれてきた忍者像をたんに「ウソだ」と否定するのではなく、なぜそうした作品が描かれてきたのかという社会的、時代的背景を探ることもしています。たとえば「くノ一」の活躍は1960年代になって女性の社会進出が進んだからこそさかんに描かれるようになったと考えられます。

そういった作られた忍者像も重要な「文化の鏡」ですから、実像(史実)と虚像(イメージ)の両面を研究しています。

――くノ一はてっきりフィクションの産物だと思っていたのですが、『忍者学研究』所収の高尾善希さんによる「藤堂藩の忍者たち」では、江戸時代前期に書かれた忍術書『万川集海』には女性のスパイの記述もあり、ただし男性の忍者と同様の働きをするわけでなく、敵の家に入り込み、攪乱の手伝いをしていたと書かれています。

山田 そうですね。専業としての忍者ではないのですが、くノ一の術と呼ばれるもの自体はありましたし、男性が入り込めないようなところに女性が入り込んで外に情報を伝える役割を果たすこともありました。とはいえ塀を跳び越えたりといった、現在の女性の忍者のイメージから想像されることはしていませんでしたが。

――先生のエッセイによると「隠れ身の術」もあったそうですね。

山田 はい。ただし私たちがイメージする「パッといなくなる」ようなものではなく、相手の意表を突いてそこにいないように仕向けるというやり方なんですね。たとえば暗闇の中で火薬に火を付け、煙が出て敵を驚かせているあいだに、うずくまって風呂敷で頭から覆って暗闇と同化して姿を消し、敵がなんだなんだと走って探しているのを確認したら反対方向に逃げる、といったものです。つまり相手の心理の裏を突くようなものですね。

そういったものがフィクションの中で映像表現が発達するにつれ、実際の忍術よりもドラマチックに魅せることが求められるようになり、大げさに描かれるようになって今日のようなイメージが普及したのだと思います。

SPONSORED