人口の半分は女性だ。男性と同等の権利が与えられるのが自然ではないのか。ポストも平等に与えられるべきではないのか。国の成長に関わろうが関わるまいが、人権尊重や男女平等は社会政策として実現すべき課題ではないのだろうか。
こう書くと残念ながらすぐにレッテルを貼る人たちが現れかねないので、あらかじめ断っておくが、私はフェミニズムに詳しくもなければ、政治的にいわゆる左派でもない。一人の新聞記者として、働く女性として、素直に考えれば、こうなる

全国紙で初めて女性で政治部長になった毎日新聞政治部長の佐藤千矢子さんは、著書『オッサンの壁』第1章で上記のように記している。本書は現役新聞記者である佐藤氏が、働く上で多くぶちあたった「壁」について率直につづった一冊だ。ここに記されているのは、自身と取材をした人々の実体験と、それらを通して「素直に考えた」ことだ。だからこそシンプルに実態が浮かび上がる。そして残念ながら、今もなお男女平等が実現していないからこそ、「実態を知る」ことが重要になるのだということも伝わってくるのだ。

では、どのような実態が浮かび上がったのだろうか。第2章「ハラスメントの現場」よりセクシャル・ハラスメントの実体験を抜粋し、再編集の上お届けする。
 

#Metooのときに行われた女性政治部長3氏の座談会

「オッサンの壁」について考えるなら、ハラスメント(嫌がらせ)の問題を避けて通るわけにはいかない。ハラスメントにはさまざまな種類があり、主なものだけでも、セクシャル・ハラスメント(セクハラ)、パワー・ハラスメント(パワハラ)、ジェンダー・ハラスメント(ジェンハラ)、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)、パタニティ・ハラスメント(パタハラ)、モラル・ハラスメント(モラハラ)、票ハラスメント(票ハラ)などがある。この章ではセクハラを取り上げたい。

2017年10月、米ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が長年にわたり女優らにセクハラや性的暴行を繰り返してきたことが米紙ニューヨークタイムズの記事で告発された。これをきっかけにSNS上に「私も」と被害体験を告白する動きが「# MeToo(私も被害者)運動」として世界に広がった。

2017年10月5日のニューヨークタイムズが報じたセクハラ騒動でアメリカ中を騒がせてたハーヴェイ・ワインスタイン(写真左)と告発した一人ローズ・マッコーワン。2007年前のプレミアにて Photo by Getty Images

ちょうどそのころ、Yahoo!ニュース特集編集部が、毎日新聞、日本テレビ、フジテレビの女性政治部長3氏の座談会を企画し、私も出席した。2017年12月のことだ。その中で、当然、セクハラもテーマになった。

司会役から「目下、日本でも世界でも職場などでのセクハラに対して声があがるようになっています。男性議員から女性記者へのセクハラはありましたか」との質問が投げかけられた。
当時、日本テレビの政治部長だった小栗泉さんが、フジテレビの政治部長だった渡邉奈都子さんと私を見ながら「小栗 昔は……(と2人を見つつ)、ありましたよね?」と言うと、「佐藤、渡邉 (沈黙ののち、笑い)」という書き出しになっている。

この時、私は内心「昔はあったが、今もなくなっていない……」と思った。