旅作家の歩りえこさんが、世界94カ国を旅していた頃に出会った人や現地の様子、その旅から得たこと、感じたことなどを綴っているFRaUweb連載「世界94カ国で出会った男たち」。今回は、ウクライナに対する軍事侵攻で連日報道されている「ロシア」を過去に訪れた際のエピソード。約20年前に初めて利用したモスクワの空港でのこと、再訪して有名観光地へ行ったときのこと、道行く人たちを見て感じたことなどを綴っていただきました。

薄暗くて不安が募ったモスクワの空港

 

ロシア・モスクワのシェレメチェボ国際空港。この空港は私が世界94カ国を旅して、利用した空港の中で最もしんどい空港だった。初めてこの空港に降り立ったのは二十歳の頃だ。旅費を節約するために最安値の航空券を利用することが多かったが、航空券の価格比較サイトで一番安いのがロシア系航空会社だったので特に何も考えずに購入した。

欧州への乗り継ぎのため、12時間も待たなくてはならない。到着したのが夜というのもあるが、「電気ついてますか?」と誰かに尋ねたくなるほど空港全体がやけに暗い。電気代を節約しているのだろうか? それとも一部停電しているのだろうか? この暗さで充分と判断されていることが不思議に感じるほどの暗さだ……。ひと通り空港を歩いて辺りを見回したが、歩けば歩くほど薄暗いなんともいえない雰囲気に不安が募っていく。

とりあえず、少しでも明るくて治安が良さそうなエリアを聞こうと、インフォメーションカウンターに行って驚いてしまった。日本人の感覚では信じられないことに、案内係の女性が勤務中にも関わらずチョコレートをモグモグ食べており、口の周りがチョコレートだらけだ。やる気ゼロだし、口元が汚すぎる……。案内係は私の驚いた様子にも反応しないままチョコレートを食べ続け、無言でとあるエリアを指で示した。

恐ろしくやる気はなかったけれど、空港職員が言うならそのエリアで間違いないだろう。硬くて冷たいベンチにようやく腰を下ろすと、暗がりに光る瞳と目が合った

暗くてはっきりとは分からないが、アジア系とみられる男性の瞳は私を真っすぐに見つめたまま視線を逸らそうとしない。

1924年に死去したロシア革命のレーニンの遺体が保存されている「レーニン廟」。内部は撮影不可でカメラ、スマホも持ち込みできない。