認知症大国・日本が向かうべき、「認知症フレンドリー社会」のリアル

【対談】南杏子×笠貫浩史
現代ビジネス編集部

その後近代化を経て「認知症」は医療の対象、介護の対象へ変遷しました。有吉佐和子さんのベストセラー『恍惚の人』が著された1970年代は、「施設における専門的な介護」の必要性が強調されはじめた時期でした。

ただ、こうした対象化の枠組みではどこまで行っても「援助する、される」という垂直的な関係性になってしまう。その問題意識が2000年代以降強くなってきています。

「認知症フレンドリー社会」へ

笠貫『アルツ村』で、主人公の差配のもとで認知症の女性たちがみんなで料理をするシーンがとても好きなんです。かつて習いおぼえた郷里の浄瑠璃を披露したり、思い出の歌を一緒に歌うといった音楽にまつわるシーンもいいですね。

:認知症の患者さんでもずっと料理をしていた方などは、食材を切ったりする作業自体はとても上手にできるものです。魚や野菜をさばいて「ありがとう」とお礼を言われるのは、とても嬉しい瞬間だと思うんです。認知症の方がそういう機会をたくさん持てる世の中にできるといいですよね。

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笠貫:本当ですね。料理や音楽を楽しんでいる時って、大袈裟に言えば「ほかならぬ現在を感じる時間」だと思うんです。過去・未来よりも「今」を率直に楽しむいきいきとした時間です。ああいう時間を認知症の人が他者と共に持つのは、少なからぬ精神安定効果があるだろうという気がします。

認知症スクリーニングの「長谷川式簡易知能評価スケール」を考案された長谷川和夫先生は晩年にご自身が認知症を発症されましたが、「自分自身が認知症になって僕は初めて認知症のことがわかった」と語っておられます。

先生は介護保険制度がスタートするよりもずっと前にデイサービスの必要性を提唱され、これはとても重要な功績だったのですが、興味深いことに、いざご自身が認知症になられた際には「デイサービスに行きたくない」とおっしゃいました。代わりに行きつけの喫茶店でコーヒーを飲む時間に安寧を得ていらしたそうです。

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