2009年にファンタジーノベル大賞を受賞して『月桃夜』でデビュー、『雪の鉄樹』が「おすすめ文庫王国2017」第1位、『オブリヴィオン』で「本の雑誌2017年上半期エンターテインメント・ベスト10」第1位、『銀花の蔵』が第163回直木賞の候補となった遠田潤子さん。その最新作『人でなしの櫻』は、「こんなにも震えた作品はない」「結末に怯えながら一気に読んでしまった」「遠田作品の中でいちばんすごかった」と書店員からも多くの熱い声が集まる話題作だ。

では、いったいなにが「すごい」のか。直木賞受賞作『星々の舟』をはじめ、「天使の卵」シリーズ、『ダブル・ファンタジー』『放蕩記』『風よあらしよ』と多くの名作を生み出した作家の村山由佳さんの解説をお届けする。

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遠田潤子が描くインモラルな世界

このテーマで書く──と作家に言われた時、おそらく担当編集者は狼狽え、悩んだのではないか。

何しろ昨今、世間はインモラルに対して厳しい。アニメやイラスト、ドラマからCMまで、いくら作り手側が「これはフィクションです」「一種のファンタジーです」と弁明しても、問答無用で批判し断罪しようとする風潮が強まっている。

もちろん、何でもかんでも「表現の自由」を楯に逃げることはできないし、物事は常に弱者や少数派の側に立って見るべきだ、けれども、〈完全に正しい〉ものしか存在を許されないとなると、それはそれで歪ではないか。影が存在しない世界は、人の生きる場所ではない。

本作『人でなしの櫻』には、大人が子どもの肉体を弄ぶ場面が描かれる。物語のためには必然なのだが、読者の多くはここで大いに眉をひそめるだろう。

いや、正しい反応である。だからこそ私たちは、主人公・清秀に感情移入する。彼が、長く断絶していた父親の唾棄すべき性癖を知り、吐き気を覚え、憎悪を深めてゆく過程にいちいち納得し、激しく怒り……そしてこれまた、だからこそ彼に心を寄り添わせるかたちで、否応なく惹きつけられてゆくのだ。父親が監禁していた〈蓮子〉という唯一無二の存在に。

蓮子は8歳のときから監禁されていた…Photo by iStock