北関東にはわかりやすい「三県境」が
県境というのは不思議なもので、そこに行ったからといって地面に点線が引いてあるわけではない。ないからこそ、そこを辿ってみたいと思うのが、マニアの心理だろうか。
コロナ禍が広がる前に、埼玉・群馬・栃木の県境が交わっている「三県境」に行ったことがある。東京の浅草から東武日光線へ乗り継ぎ、柳生駅で降りて徒歩12分。道案内の看板まであって、迷うことなく着いた。ここには三県境の印が埋め込んである。
埼玉と群馬側には稲穂が実を垂れた美しい田園風景が広がり、栃木側は空き地で、そこには住民が設置した手書きの案内板まであった。シオカラトンボが飛び、乾いた風が吹いていた。田んぼのあぜ道の交差点にポツンと「三県境」の印。ここは日本で一番行きやすい三県境として知られ、観光名所にもなっている珍しい境目だ。
実は、こんなわかりやすく行きやすい県境は全国でも珍しく、県境とはだいたい山の稜線か、川の中央を走っている。それが分け隔てられた両者を納得させる位置だからそうなっているのだろう。ここのように両足を広げて記念写真を撮れる場所は少ないだろう。
幅90cmの福島県
これをきっかけに県境というものに興味を持ち、日本全国の県境を調べるようになった。
ある日、グーグルマップで県境を辿っていると、福島県と新潟県、山形県の境に妙な形があるのを見つけた。まるで福島県からシッポが新潟県側に伸びているような、長細い出っ張り県境がある。これはなんだろう。


地元の福島県喜多方市山都(やまと)支所の産業建設課に聞いた。
「あそこは、飯豊山(いいでさん)神社の参道にあたる尾根道で、福島県の土地になります。幅90cmのところもあれば、神社の社があるところは100mほどの幅があるところもあり、新潟県と山形県の間に7.5kmくらい伸びています。幅の狭い場所なら、三県をまたぐことも可能ですよ」
飯豊山は標高こそ2105mと平凡だが、登るのは険しい山だという。細く伸びた県境のなかに、2つの山荘があるが、年間通して常駐する人のいない避難小屋となっている。

10月初旬から翌年6月頃まで雪に閉ざされ、おいそれと登ることはできない。冬の積雪は周囲で10mにおよぶ豪雪地帯だ。
7月初旬の山開きから9月までが登山のピークで、夏の季節は「尾根に立てば、広がっているのは高山植物のお花畑」の風景だという。