「新型コロナの影響で法事が減り、寺社の運営は極度に厳しくなっています。しかも、墓じまいをされたら、寺には一銭も入らなくなる。先々の寺の修理費などを考え、なかには高額の離檀料を要求する寺もあります」
大森さんは埼玉に戻り、改めて「墓じまい」について調べた。
「すると、離檀料は払う必要がないことがわかりました。私にだって、子どもの頃から知っている菩提寺には感謝の気持ちはあります。お礼の意味を込めて、30万円を支払う代わりに、お骨を移す許可を得るため、翌月に再度お寺を訪れました」
大森さんはその間、埼玉にお墓を150万円で買い求めていた。改葬許可申請書にハンコを押してもらったら、すぐにでも両親や先祖のお骨を移そうとしていたのだ。
「ところが、あくまでも200万円の離檀料を納めなければ、申請書にハンコは押さないと住職が言い出した。これにはさすがに参りました。結局、墓じまいをサポートする業者にお願いして間に入ってもらうことになりました」(大森さん)

住職との交渉をサポートした「援人社」代表の竹田繁紀氏が振り返る。
「離檀料には法的根拠はなく、あくまで檀徒からのお礼の気持ちであることなどを、法律論を踏まえ、かつ低姿勢にご説明しました。嫌味を言われながら1ヵ月半の粘り強い交渉で、ようやく離檀料は30万円で落着し、さらに墓の解体費用で30万円。計60万円で、改葬許可申請書にハンコと署名をもらいました」
大森さんの思いつきから始まった墓じまいは多額の金銭がかかり、業者の手を借りることでようやく終結した。
「新しい墓の購入と離檀料、業者への支払いなどを含め、墓じまいには250万円近くのカネがかかりました。強欲な住職との3ヵ月半に及ぶ不毛な交渉がやっと終わって、精神的にヘトヘトです。
そのうえ、故郷に今も残る親戚とは縁が切れてしまった。住職が親戚たちに私のことを先祖をないがしろにするひどいヤツと吹聴しているのです。親戚から見ると、私は郷里を捨てた薄情者なのでしょう」(大森さん)