74人の児童が校庭で約50分も待たされ、津波に呑まれて亡くなった(うち4人は現在も行方不明)宮城県石巻市の大川小学校。保護者説明会では遺族らが学校や行政のずさんな管理体制や隠ぺい体質を明らかにし、裁判では1審2審とも勝訴する。だが弁護士や法律学者らは、声を揃えて「勝てる見込みがない裁判」と語っていた。

法律のプロがいう勝てない理由が何かは、前編「人災と言われた大川小津波裁判で弁護士や法律の専門家が「勝てない」と考えた理由」にてお伝えしている。

では法律のプロたちが「難しい自然災害訴訟」、「一般的に勝てない国賠訴訟」と評したにも関わらず、大川小学校津波裁判はなぜ勝訴できたのか。一橋大学大学院法学研究科教授角田美穂子氏の編著書『リーガルイノベーション入門』(弘文堂)と本のもとになった一橋大学の集中講義をひもとき、解説する。

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遺族が代理人弁護士になる効果

大川小津波裁判で遺族側の代理人を務めた2人の弁護士の一人、吉岡和弘弁護士が本書で語っていることによると、起点が法的責任を問うこと自体がなかなかできない自然災害による損失、しかも一般的に「勝てない」と言われる国家賠償訴訟だ。実際それまでの津波裁判は訴えた遺族側のほとんどが敗訴していたという。
だが吉岡弁護士は、もう一人の齋藤雅弘弁護士とともにそうした難しさを乗り越える画期的な新しい手法を試みた。

その一つが、遺族らを子どもたちの事実上の代理人弁護士にしたところだ。弁護士が前面に立たず、代わりに事実上の代理人弁護士となった遺族らが証拠を集める。法廷でも遺族が相手方と対峙する方法を取ったのだ。闘いのプロである弁護士が前面に出ないことが、なぜ効果的だったのか。吉岡弁護士は本の中でこう説明している。

子供を失ったのは自分のせいだと自分を責め続ける親たちの苦悩は計り知れない(写真はイメージです) Photo by iStock

「子どもを失った親たちは、自分を責めるんですね。『どうして私は娘を迎えに行けなかったんだろう』とか『どうしてあんな学校に通わせたんだろう』とか。子どもを失くしたのは、すべて自分たち親の責任だというふうに責めている。けっしてそんなことではないのですが、子を失くした親というのはそういう気持ちを持ってしまうことが多いのです。

そうであるなら、むしろ、そうした親としての子どもたちに対する思いを、遺族のあなた方が子どもの代理人になって証拠を集め、法廷でお子さんの無念な気持ちを代弁してはどうかと思ったのです。すると、もう立ち上がれない状態の遺族が、子どもたちのために頑張ろうと立ち上がるんです。そして、遺族らは、毎夜、集まって議論を重ねるようになりました。

例えば、明日予定されている保護者説明会では誰が何を聞き出すか、前回の説明会と前々回の説明会とでは答弁に矛盾があるじゃないか、などと夜明けまで議論することにより、とてもいい証拠を集めることができました。こうして、提訴時には、かなりの証拠を手にすることができたわけです」。

実際、映画でも、第1回の説明会は、遺族の感情が噴き出し、答弁の中に矛盾や有利な証言となりえるものがあっても、聞き出せる状況ではないように思えた。それが、その後の説明会では、遺族たちが理路整然と質問を組み立て、行政側から新たな事実を次々と引き出すように劇的に変わっていた。