軍拡宣言の独ショルツ首相が「ウクライナへの武器供与」に逡巡する最大の理由

もしロシアから「参戦」とみなされたら

真っ二つに割れたドイツ与党

ロシアがウクライナに侵攻した3日後の2月27日、ショルツ首相は臨時国会で演説した。

「我々は時代の転換を迎えている。これは、それ以後の世界はそれ以前の世界とは同じものではなくなるという意味だ」

そして、これまで米国に何と言われようが、一度も本気で取り組んでこなかった国防費の大幅増額を悲壮な表情で公表したものだから、その過激な変身にドイツ国民はもちろん、世界中が驚いた。

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ドイツ連邦軍のポンコツぶりは相当なもので、それは10年も前から指摘されていたが、改善は16年のメルケル政権の間、巧みに回避され、多くの国民が、軍事費の増額など税金の無駄使いだと思うに至った。数年前、ヘリコプターが足りず、軍事演習にADAC(日本でいうJAF)の救急ヘリを借りたというのは本当の話だ。憲法9条がなくても平和ボケにはちゃんとなれる。

しかも、その平和主義の先頭に立っていたのが社民党だったから、今回のショルツ氏の「軍拡」宣言は二重の意味で衝撃的だった。その結果、ドイツの政治は3月からずっと、「重火器(自走榴弾砲なども含む)をウクライナに供与すべきか、否か」という底なし沼のような議論に嵌ってしまった。

 

武器供与賛成組は、野党のキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)、そして、与党の緑の党と自民党(FDP)だ。「どうしてそこまで?」と不思議に思うほど、彼らは切羽詰まった様子で大型重火器の供与を叫んだ。

それに対してショルツ首相の社民党(SPD)は、「重火器の供与は参戦を意味し、戦争に引き込まれる危険が増す」とブレーキをかけた。ロシアから報復攻撃を受ければ、脆弱な装備しかないドイツ軍は戦えない。それどころか、怒ったプーチン大統領が核兵器を使い、不毛な第3次世界大戦が勃発するかもしれない、というのが社民党の懸念だった。

実は、ドイツは武器輸出大国で、米国、ロシアに次ぐ第3位の地位を、常にフランスと争ってきた(最近では中国の台頭が著しく、2020年には中国がロシアを抜いて世界第2位だったとも言われる)。そんな中、社民党は元々、武器の輸出には反対の立場を取っており、特に、紛争地への攻撃用武器の輸出は認めない方針で今まで来た。

つまり、ショルツ氏の躊躇の裏には、社会主義者としての信条も働いているのだろう。さらには、ロシアからガス、石炭、石油を引き続き輸入しながら、ロシア兵を殺すための武器をウクライナに送るという矛盾に対する不快感もあるのではないか。

ところが、わからないのは緑の党だ。この党はかなりの左翼で、武器の「ブ」の字も口にしたくないという平和主義者の集まりだったはずだ。それが、ベアボック外相(緑の党・女性)が険しい声で「ウクライナに重火器も含む武器支援を!」と叫んだ途端、全員がいきなり「右向け右」。今やプーチンを武力で制圧することが正義となっている。

同じく与党の自民党もそれに負けず好戦的で、国会の国防委員長を務めるシュトラック=ツィマーマン氏が、ショルツ氏の“優柔不断”を盛んに攻撃。つまり与党は真っ二つに割れてしまった。

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