家庭内にもジェンダー問題はある。2019年に内閣府男女共同参画局が10~70代以上の男女に実施した「男女共同参画社会に関する世論調査」で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という意識調査において、「賛成」が35%(「賛成」7.5%+「どちらかといえば賛成」27.5%)もいた。その前回(2016年)に行われた調査では「賛成」が40.6%もいたというから驚きだ。

キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「家庭優先で生きてきた女性が、自分の置かれた立場を客観的に認識したときに、夫に何らかの復讐を考え、私たちに相談することがあります」と語る。彼女は離婚調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。今回相談に訪れたのは、「妻は家庭を守るべき」と言われ、仕事をすることを許されずにいた35歳の妻。この連載は、調査だけでなく、調査後の依頼者のケアまで行う山村氏が見た、現代家族の肖像でもある。

山村佳子
私立探偵、夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリングを持つ女性探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
リッツ横浜探偵社:https://ritztantei.com/
山村佳子さん連載「探偵が見た家族の肖像」これまでの記事はこちら
 

「いい暮らしをさせてあげてるんだから」

今回の依頼者は靖子さん(仮名・35歳)です。結婚8年間、5歳年上の商社勤務の夫と共に世界各国を渡り歩いていたと言います。
「主人は親子3代、海外と日本を行ったり来たりしており、幼いころからずっと海外で暮らしていました。しかし半年前に、日本本社勤務が決まり、今後の異動もなくなりました。やっと日本に帰ってこられたのです」

その背景にあるのは、夫が役員候補になったことだと言います。
「本人は、現場で飛び回っていたいようなのですが、コロナ禍にもかかわらず結果を出したことにより、かなりの出世をしたんです。今は、自分で働くよりも、後進の育成と日本を基軸に高みを目指した仕事を任せられたと言っていました」

8年間の結婚生活は、夫中心に回っていたそうです。最初の2年は中東のある国に赴任になり、駐在妻からのいじめや、夫不在の孤独に耐えた。その後の1年はロシアの田舎町に住み、日本人が全くいない環境で、気軽におしゃべりする相手もいない状況に。その後も欧州の各都市を転々としていたそうです

「夫だけは、日本にちょくちょく帰国するのに、私は8年間でたったの1回のみです。夫に梅干しやインスタントみそ汁をリクエストしても忘れる。文句を言うと、“いい暮らしをさせてあげているんだから、いいじゃん”と言われるんです。確かにそうですし、私が主人と結婚したのも、年収の高さと安定があったので、何とも言えないのですが、ここまで人生を踏みにじられるとは思っていませんでした」

そう言って泣き出す靖子さん。結婚前までは、航空会社に勤務し、CAとして活躍。入籍後、夫から「仕事はやめるよね。家のことをやってくれるから、君と結婚したんだよ」とさも当然のように言われたそうです。

靖子さんは客室乗務員の仕事にも誇りを持っていた(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock

「本当は仕事をやめたくなかったし、海外での生活も嫌だったんです。でも、夫のあの調子で、堂々と言われると反論ができない。結婚もしたかったので、余計なことを言って破談になるのも怖かったんです」