世界中が、この男の退場を願っている。しかし歴史に名を刻んだ独裁者たちと同じように、プーチンは巧みに死を遠ざける。反乱の芽は摘み取られ、国民は洗脳されている。悪夢に終わりは来るのか。
メキシコまで追いかけて
プーチンには忘れられない過去がある。
「国外へ出ていけ!」と怒声をあげながら迫って来るドイツの群集を前に、茫然と立ち尽くす。傍では苦労して集めた機密文書の山が、黒い煙を上げながら燃えている。
'89年12月、37歳のプーチンはKGB(ソ連国家保安委員会)職員として東ドイツのドレスデンに駐在していた。同年11月にベルリンの壁が崩壊し、暴徒と化した市民の怒りはKGBにも向けられた。

プーチンはクレムリンに助けを求めたが、赤軍幹部は「我々は何もできない」と答えるのみだった。祖国ソビエト連邦もまた、崩壊の時を迎えようとしていたー。
信じてきた国家が崩れ去る恐怖は、プーチンの深層心理に深く刻まれている。だからこそ、ロシアという国家を統治する自分自身が絶対に死なない仕組みを、あらゆる手段を使って作り上げた。それこそが独裁者の「自己保存システム」だ。
2月24日に始まったウクライナ侵攻が行き詰まり、国際社会の批難を浴びようとも、現在のところロシアにクーデターの気配は微塵もない。
プーチンが死なない理由ーそれは過去の「独裁者」たちの歴史を紐解くことで見えてくる。とりわけプーチンと重なるのは、ソ連の最高指導者スターリン(1878〜1953)だろう。