「宇宙を加速膨張させるエネルギー」科学者たちも棚上げしようとした2つの矛盾

解明に挑んだ科学者のアプローチ(1)

この宇宙は、無数に作られ続ける泡宇宙の1つに過ぎない——多元宇宙論マルチバースは、現在の宇宙の姿をむりなく説明するほぼ唯ひとつの現代宇宙論と言われています。この宇宙以外の宇宙には、私たちのような生命体はいるの? 別の宇宙に行くことはできる? さまざまな疑問が湧きますが、現代宇宙論はどこまで見えてきているのでしょうか?

ここでは、誕生以来続く宇宙の膨張を加速させるエネルギー「ダークエネルギー」の発見とその正体、そしてダークエネルギーの謎解明の過程で得られた多元宇宙・マルチバースの誕生を、物理学者で、マルチバースに造詣の深い野村泰紀さんに解説してもらいました。

加速膨張する宇宙。そのエネルギーとは

私たちの宇宙はずっと同じ状態で存在しているわけではありません。

ことの始まりは1916年、アインシュタインが重力を時空の幾何学として記述する一般相対性理論を完成させたことです。この理論はニュートンの重力理論を、アインシュタイン自身が1905年に発表した相対性の原理と矛盾しないように拡張したもので、物理学の歴史上でも最も美しい理論の1つといわれています。アインシュタインは、すぐにこの一般相対性理論を、宇宙全体に適用し、宇宙は膨張するか、収縮するかのどちらかでしかないという結論に行き着きました。

これは当時の、宇宙とは「常にそのままそこにある」ものという常識とは合致しない結果でした。これを受けてアインシュタインは自分の構築した理論の修正を試みますが、1929年にハッブルが「ほぼ全ての銀河は地球から遠ざかっており、またそのスピードは遠くにある銀河ほど速い」ということを観測し、「宇宙が膨張している」ということを実際に発見してしまいました。また、宇宙物理学者でカトリック司祭でもあるジョルジュ・ルメートルも、同じ結論に達しています。

【写真】アインシュタインとルメートルアインシュタイン(右)とルメートル(中)。カリフォルニア工科大学で。左は、同大学の設立の中心人物であった、物理学者のロバート・ミリカン photo by gettyimages

この宇宙が膨張しているという結論は、その後広く受け入れられることになりますが、さらに時は下って1998年、ソール・パールマター(カリフォルニア大学バークレー校およびローレンス・バークレー国立研究所)、ブライアン・シュミット(オーストラリア国立大学)、アダム・リース(ジョンズホプキンス大学および宇宙望遠鏡科学研究所)らに率いられた2つのチームが、宇宙の膨張は加速している、つまり膨張のスピードが速まっているという、衝撃的な観測結果を発表しました。

これがなぜ衝撃的なのでしょうか? それは、重力は、万有引力と呼ばれることからもわかるように、物質に必ず引力として働くからです。すなわち、異なる物質間を互いに引きつけ合う力として作用するのです。これは、宇宙の膨張(2点間が離れていく現象)を遅くするように働くことを意味します(図「空間の膨張に伴う銀河のサイズと銀河間の距離」)。つまり、宇宙膨張は重力の効果で遅くなっていくはずだと考えられるのです。

【図】空間の膨張に伴う銀河のサイズと銀河間の距離空間の膨張に伴う銀河のサイズと銀河間の距離(『なぜ宇宙は存在するのか——はじめての現代宇宙論』より

すなわち、宇宙が加速膨張しているという事実は、私たちの宇宙には何か「物質以外」のものが満ちていることを意味しているのです。この何かは、加速膨張の源、すなわち重力のもとで実質的に斥力として働くものでなければなりません。この未知のエネルギー源(重力はエネルギーに応答する)は、その正体を特定せず集合的にダークエネルギー(日本語では暗黒エネルギー)と呼ばれています。

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