2022.05.16
# ライフ

「子ども1人につき1500万円支給」がじつは合理的なワケ…イーロン・マスクも警鐘を鳴らす「少子化問題」解決策

田内 学 プロフィール

お金が社会を支えていると主張する人たちの驕り

コロナ禍で注目されたエッセンシャルワーカーの存在。どれだけお金を貯めていても、働いてくれる人がいなければ生活できないことに改めて気付かされた人は多いと思います。

私たちはお金を食べて生活しているわけではありません。お金を支払うことで、誰かに働いてもらい、モノやサービスを手に入れて、生活しています。

拙著『お金のむこうに人がいる』で伝えたかったのは、この点です。社会を支えているのは、お金ではなく働く人々です。子どもでもわかるあたり前の話です。このあたり前を年金問題にあてはめると意外な事実が浮き彫りになります。

老後の年金問題は、いわばイス取りゲームです。働く世代の割合がどんどん減っていく未来においては、老後を迎えた人たちすべてが安心して暮らしていけません。

 “安心して暮らせる老後”というイスに座るためには、年金だけでは足りず、2000万円をためておく必要があると言われています。

そして、こんな主張もあります。「このままでは、将来の年金保険料や税金の負担が増えてしまう。今のうちに、公的年金の積立を増やしておくべきだ」という話です。
どちらも、もっともな話に聞こえます。

 

さて、一人ひとりが貯蓄を増やしたり、公的年金の積立を増やしたりしておけば、全体のイスの数は増えるのでしょうか?

残念ながら、答えはノーです。

少子化によって、働く人の割合はどんどん減っていきます。社会全体でどんなにお金を積み立てていても、医療や介護の分野で働く人が減ってしまえば、老後に十分なサービスを受けることはできません。かといって、医療や介護の分野で働く人を増やせば、他の産業で働く人々がさらに不足します。

この問題を解決するには、少子化を食い止めたり、生産性を高めたりして、生産力を上げるしかありません。これは社会保障の経済学では常識となっている話です。以前、経済誌の企画で厚生労働省年金局の担当者と対談したことがありますが、これは厚生労働省の公式見解でもありました。
*参考記事:老後資金2000万円貯めても積立方式でも年金問題は解決しない、厚労省年金局数理課長×田内学氏対談

「AIが発達して生産性が上がるから、少子化を気にしなくてもいい」という人もいます。しかし、今のところ、日本の労働生産性はそんなに上昇する兆しはありません。逆に、介護の分野では今後も人材確保が厳しくなっていきます。2019年現在で210万人いる介護職員数が、2040年には280万人必要になっていると試算されています。

それに、日本だけAIが発達するわけではないですから、外国に比べて人口が減れば国際競争力が落ちます。やはり、少子化を食い止める必要があるのです。

そして、「財源が無い」という理由で、子育てに対する金銭的な支援をためらうのは、本末転倒です。次世代の子どもたちが育たなければ、そもそもお金を受け取って働いてくれる人がいなくなります。老人たちだけが住んでいる島国で、札束を握りしめていても生活してはいけないことに、財務省もそろそろ気づくべきです(日本の生産力がなくなると、外貨を買えなくなりますし、外国の人たちに働いてもらうこともできません)。

財源が足りないというなら、他の費用を削ってでも子育てに思い切った経済的支援をすべきなのです。

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