「核シェアリング」妄想に異議あり プーチンを反面教師にすべき習近平【田中×浅田】

「憂国呆談」第1回【Part3】
田中康夫×浅田 彰 プロフィール

「中道」が「右側」へと引きずられていく日本

浅田 日本は被爆国であり、第二次世界大戦以降、攻撃的な軍事力の行使をしてないってことが大きな財産なんで、緊張緩和や軍縮──とくに核軍縮に関してメディエーター(仲介役)となる資格があり義務がある。

ところが、アメリカの「核の傘」に依存している以上、核兵器禁止条約には参加できないって言うありさま。

政治や外交ではホンネとタテマエの使い分けが当たり前なんだから、二枚舌でいきゃいいんだよ。唯一の被爆国が核兵器禁止条約を調印・批准したって誰も文句は言えないし、アメリカは良かれ悪しかれそんなの気にしてないんだから。ところが、今回のウクライナ戦争を見て「核シェアリングを」とまで言い出すんだから、まったく……。

先日入った店で、たまたま隣のテーブルで大手出版社の編集者らしき連中が話してるのが聞こえてきてさ。

「北朝鮮のミサイルが落ちてきたら怖いよね」とか言ってて、3月24日に青森県沖の日本の排他的経済水域の内側に落下したってニュースを受けて喋ってたんだろうけど、どうも弾頭がついてるかついてないかの区別がわかってないみたいなんだね。

発射実験で弾頭のついてないミサイルが落ちてきたって、巨大なドラム缶が落ちてくるようなもんで、そりゃ万一直接当たったら死ぬけど、その確率はゼロに近いでしょう。それを核爆発で都市が壊滅するみたいにマスメディアの連中が喋ってるわけ。

もちろん金正恩の核武装計画は許しがたい。しかし、日本はそういう問題を客観的に論ずる用意ができてない感じなんだな。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

田中 口を酸っぱくして言い続けねばならないのもイヤハヤだけど、政治や外交の至らなさを本来は指摘すべき存在の「メディア」の劣化は深刻。

朝日新聞も「プーチン巨悪、ゼレンスキー賞賛、バイデン追従」だ。これまでネトウヨが朝日を潰せと騒いでいたのとは全然違う文脈において、もう朝日は有楽町マリオンや中之島フェスティバルタワーの不動産管理会社に集中すべきかもよ。

新聞を残したいなら、月刊誌「ル・モンド・ディプロマティーク」のデジタル日本語版も存在するフランスの日刊紙「ル・モンド」くらいの規模にして、時々刻々の国内ニュースは共同通信と時事通信からの配信記事に集約して、残りで署名記事を堂々と書けばいい。でもそうならないのが宅配制度に安住する日本の新聞社の悪しき構造なんだよ。量の拡大どころか量の維持も難しいんだから、質の充実こそ選択肢なのにね。

浅田 現状があまりにひどいんで、珍しくBSフジのプライム・ニュースに出てウクライナ戦争を語ったんだけど、櫻井よしこを筆頭とする右翼のプロパガンダが主流とはいえ、ぼくを呼んだり、あるいはたまたまぼくの住む選挙区の伊吹文明(自由民主党・元衆議院議長)と穀田恵二(共産党・衆議院議員)を呼んだり、そういうセンスがあるわけね。中道がどんどん中道右派から右翼へと引きずられつつある中で結果的にそれに追随する他のメディアよりまだいいんじゃないかな。

自民党内には安部晋三元首相の言い出した核シェアリング論に同調する連中もいるけど、党内の安全保障調査会で一応議論したものの「日本にはそぐわない」とした。「大阪維新の会」の大阪都構想をめぐる住民投票も自民党と共産党の事実上の共闘で否決した。最低限のリアリスティックな常識が残ってるのがこの両党とは!

 

田中 その共産党が「野党共闘」と称して立憲民主党と昨夏の横浜市長選で擁立した山中竹春「コロナ専門家」市政の迷走を最も的確に指弾しているのは横浜市会の自民党。実に天晴れだよ。

他方で共産党は、公約に掲げた主要課題を一つとして予算化せず、彼の職場だった横浜市立大学の現役教授らから「パワハラ」等の不当圧力疑惑で2度も告発され、いずれも横浜地検が正式受理して捜査中なのに忠言もせず、逆に市政の停滞は市会多数派の自公が協力しないからだと居直り、ウルトラ無党派層の市民から呆れられている。

思うに共産党は「不確かな与党」にアグラをかかずに「たしかな野党」の原理原則を貫くべきだと思うけど、「負けて兜の緒を締める」べき僕がこれ以上言うのもなんだから(苦笑)、「アベクロ(安倍晋三・黒田東彦)」経済政策のツケが危機的段階に陥っている日本、5月10日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領が就任した韓国を始めとする話題も含めて次回以降に「呆談」するとして、ここまで意を尽くして「ウクライナ問題」を2人で話しても、「憂国呆談」は親ロシア、反アメリカの「非国民・反日対談」だとSNS上で騒いでいる自称・自笑・自傷「意識高い系」の皆さんに、以下のアメリカの現実をお伝えしておくよ。

世界20ヵ国に拠点を置く「ブランド・ファイナンス」というコンサルティング会社が3月半ばに調査した「Who Is To Blame For The Conflict In Ukraine?」では、ロシアに非が有ると日本の8割が回答し、英独仏でも6割台だったのに対し、意外にも4割に留まったアメリカでは、逆にアメリカに非が有りと2割が答えている。

経済的新自由主義者が集う世界経済フォーラム「ダヴォス会議」で世界中の各業界のブランドイメージを発表することで知られる調査会社のデータというのが興味深い。

実際問題、同時期にロイター通信が調査会社イプソスと合同で実施したアメリカでの世論調査ではジョー・バイデン大統領の支持率は40%と就任以来最低の数値を記録している。

支持率が共和党員10%、民主党員77%と対極なのは予想通りとして、無党派層の支持率が27%という低スコアなのは象徴的だ。

一般的に戦争が始まると大統領の支持率は急上昇する。1991年の湾岸戦争開始直後にジョージ・H・W・ブッシュ大統領の支持率は89%、2001年の9・11テロ事件直後には息子のジョージ・W・ブッシュが91%だった。

「ウクライナの民主主義を守るための武器貸与法(レンドリース法)」に基づき、年間の軍事費が60億ドルだったウクライナへ、なんと400億ドル≒5兆2千億円も注ぎ込む予算案が(しかもバイデンが当初求めた330億ドルを70億ドルも増額して)賛成368・反対57の翼賛体制で5月10日に下院で可決したけど、当のアメリカ国民はウクライナ問題に無関心、無反応なんだよ。

「No War」と唱えずに「ウクライナ頑張れ」と叫び続ける日本メディアの報道とは異なり、11月の中間選挙に向けて一発逆転を狙うバイデン政権は前途多難だ。

そうしてフォーリン・アフェアーズのチーフ・コラムニストのギデオン・ラックマンが「ザ・フィナンシャル・タイムズ」に寄稿した「『ロシア弱体化』掲げる危険」の最後で、「「ナチスとの戦い」とか武器貸与法といった言葉が目立つが、この戦争は第2次大戦よりも、侵攻・占領を続けるソ連軍と戦うアフガニスタンを米国とその同盟諸国が10年近く支援し続けたアフガン戦争に近い」、「塹壕(ざんごう)を互いに掘り、広範囲に及ぶ前線で両陣営が何年も消耗戦を繰り広げた1914~18年の第1次世界大戦にむしろ近いとさえ見る人もいる」と述べているのに尽きるかも知れないね。

哀しいかな21世紀に入っても、「戦争は最大の公共事業」というOSの儘なんだよ、考える葦たる人間は。

第2回 安倍元首相「暗殺」と参院選の結果でわかったこと につづく)

この対談は全3パートのうちの3回目です(Part1はこちらから/Part2はこちらから)。

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