大学進学にかかった費用を取り戻せない
問題はこれだけではない。当然のことだが、大学進学には費用がかかる。学費だけではない。大学在学中に働くのは難しいから、4年分の所得を放棄することになる。また、大学受験のために私立校に通ったり、塾に通ったりすれば、かなりの費用がかかる。
さらに、日本の給与体系は年功序列的なので、大学卒であるために給料が高くなるといっても、それが実現するのは、大学卒業後かなり長い時間が経った後のことになる。
こうしたことを考えると、先に述べた企業規模による給与の差を考慮にいれなくとも、大学進学が有利な投資といえるかどうかに疑問が生じる。経済的に余裕がある家庭の子女だけが、大学に進学できることになる。
企業は大学入学というレッテルだけを評価している
以上で述べたことは、日本社会が高等教育の意義をどのように評価しているかと深い関係がある。
そもそも、学歴が高いほど給与が高くなるのはなぜだろうか? それは、大学で教育を受ければ、高い能力が獲得でき、それを職務の上で発揮できるからだ。
しかし、日本の企業は、大学卒をそのような意味では評価していない。大学卒というレッテルだけを重視し、「そのレッテルがある人に管理職になる機会を与える」という意味で評価している場合が多い。つまり、学歴とは、管理職への入場券なのだ。
そして、人々の能力や仕事の成果に合った賃金を払っているのではなく、管理職という地位についた人に自動的に高い賃金を払っている。専門知識や専門的能力を評価し、それへの対価として高い給与を支払っているわけではない。
その証拠に、図1で分かるように、初任給では大学卒と高校卒にあまり大きな差はない。また、20歳代でも、あまり大きな差はない。そして、時間が経つほど学歴による差が開く。もし専門的知識や能力を評価しているのなら、初任給から大きな差があるはずだ。そして、勤務年数が増えればほぼ自動的に給与が増えるというようなことはないはずだ。
アメリカの場合、初任給で学歴など能力によってかなりの差があり、その後は、年齢とともに自動的に給与が増えるということはない。これは能力や成果を評価しているからだ。