人気声優を起用した「新吹き替え版」も
「テレビにおける映画放送の扱いが変わった」と感じさせられたのは昨年4月。それまで9年間にわたって使われてきた『金曜ロードSHOW!』という番組名が、元来の『金曜ロードショー』に戻された。
これは映画放送の苦境から、「多くのスペシャルドラマやバラエティ特番を含む総合エンタメ枠」という扱いにしていたものを「元に戻そう」という原点回帰の戦略。コロナ禍や放送35周年などの理由もあったようだが、それ以上に「映画の名作を放送していこう」という意志の表れにほかならない。

一方、かつて30年超にわたって同じ21~22時台に『ゴールデン洋画劇場』を放送していたフジテレビの『土曜プレミアム』も、今年に入って映画の放送機会が急増。ここ3回は「3週連続 洋画祭り!!」という企画を採用するなど積極的な姿勢を見せている。
もともとテレビマンたちは、「新しいものを発信し続けることで文化の中心的な役割を担っていこう」という意識が強く、現在でもその根底は変わっていないだろう。しかし、コロナ禍に突入してから、映画に限らずドラマやバラエティなども含め、「過去のコンテンツは自社の強み」「有効活用していこう」という意識が強くなった。
特に最初の緊急事態宣言時にドラマの再放送が大きな話題となったことで、ストック型のコンテンツに対する意識が一変。単なる苦しまぎれではなく、「ニーズの高さに気づき、どのような付加価値をつけながら活用し、稼いでいくか」を考えるようになった。
たとえば洋画の放送でも、現在の人気声優を起用して新吹き替え版を手がけるなどの工夫が見られる。
また、テレビマンの変化としてもう1つ感じられるのは、「自分たちが視聴者にレコメンドしていこう」という意識。これは「レコメンドすることでリアルタイム視聴につなげられる」という期待と言っていいかもしれない。
かつて民放各局が地上波ゴールデン・プライムタイムの映画放送枠を持っていた時代もあったが、洋画人気の停滞や視聴率の低迷とともに撤退。現在の洋画名作放送ラッシュは、つらい時期を過ごしながらも試行錯誤しつつ放送を続けてきた日本テレビとフジテレビが「局としてその強みを生かしていこう」という自然な流れにも見える。
少なくとも、動画配信サービスでいつでも映画が見られる時代であっても、地上波のゴールデン・プライムタイムで名作を放送することの意味があることは間違いなさそうだ。